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 肺の聴診③副雑音~断続性ラ音~

※本ブログを執筆した古屋医師は2021年4月~2025年3月まで鳳優会に在籍

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。 前回「連続性ラ音」についてお話させていただきましたが、今回は副雑音②として断続性ラ音についてお話しようと思います。断続性ラ音を理解するためには解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学の知識を利用することはもちろん、雑音の聴取されるphaseにより病態を推定する事が必要です。今回の目標は「聴診所見から病態を推測し、重症度や治療経過を判断する!」です。

胸部の解剖 肺の位置

前回も解剖の確認をしましたが、重要な事なので再度肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ

副雑音の分類

前回の復習ですが、副雑音は連続性ラ音、断続性ラ音に分けられます。今回は断続性ラ音についてお話します。断続性ラ音とはその名の通り断続的に細切れになっている雑音の事です。断続性ラ音はさらにfine cracklesとcoarse cracklesに分けられます。連続性ラ音の時は単音性と多音性に分けられましたが、断続性ラ音に関しては単音という事はありえないので、複数形のみです。crackleではなくcracklesと記載する点に注意です。

副雑音の分類​
fine crackles、coarse cracklesに関しては下記でお話します。 体位により変化するcracklesもあります。例えば有名なところだと、心筋梗塞後の体位性cracklesです。これは仰臥位で出現し座位で消失する所見ですが、これは座位、仰臥位、仰臥位で下肢を30度挙上という3つの体位で聴診するもので、それぞれ後腋窩線近傍の胸壁下部を聴診します。聴診はそれぞれの体位になって3分経過した後のみとマクギーのフィジカル診断学には書いてありますが、正直あまり臨床的に使える所見ではないのでやっている人は見た事ありませんし、自分もやりません。。

fine cracklesを考察する

fine cracklesを考察する・イメージ

fine cracklesは「チリチリ」「バリバリ」と言った高調な音で、1回の呼吸で細かく、たくさん聴取されます。良く言われるのは「耳の近くで髪の毛をこすり合わせた音」、「マジックテープをはがした時の音」と表現されます。その音の発生原理は、直前の呼気で虚脱した気道の遠位部が吸気に伴い突然開放(圧較差の消失)することで生じると言われており、肺収縮する病態で聴取されます。つまり基本的には吸気時に聴取されます。また、その音の高さは気道の口径により変化し、気道の口径が小さいほど高調の音が、大きいほど低調の音が発生し、これは連続性ラ音の時と同様ですね。

fine cracklesを聴取する代表的な疾患は間質性肺炎・肺線維症です。間質性肺炎は図のように肺胞周囲の間質という場所が炎症や線維化をすることにより肺収縮する疾患です。そのため、末梢気道は虚脱しており、吸気時に虚脱した気道が開放されるために音が発生します。 間質性肺炎は特発性でも二次性でも肺底部に病変が好発するため、打診で肺底部を同定し、そこを狙って聴診します。 fine cracklesを聴取するときは下記のポイントを意識するとよいと思います。
  1. 呼吸相を意識する。
  2. 吸気時間を意識する。
  3. 肺胞呼吸音の気管呼吸音化を意識する。

①呼吸相を意識する。

間質性肺炎におけるfine cracklesは教科書的には吸気中期から終末に聴取されると言われますが、虚脱しているのは末梢気道であるため、空気が入り切ったところで開放音がするのはよく理解できます。ただし、実際は病態(病期や重症度)により聴取される呼吸相は変化してきます。胸部のCTを見てみると分かる通り、間質性肺炎や肺線維症は肺の末梢から起きてきます(図は肺線維症のCTです。)。進行すると徐々に中枢側へ病変の範囲が拡大してきます。それに伴い、初期は吸気中期から終末にfine cracklesを聴取しますが、進行すると全吸気で聴取するようになります。また、炎症がメインの病態ではcracklesの聞こえ方も「チリチリ」した音になりますが、線維化が強くなるとはっきりとした「バチバチ」した音になってきます。
呼吸相について・イメージ

②吸気時間を意識する。

正常呼吸音の時にやりましたが、呼吸音は聴診部位により吸気と呼気の長さが異なります。側胸部から背部で聴取できる呼吸音は肺胞呼吸音であり、肺胞呼吸音は吸気の方が長く聞こえます。肺の線維化が進行し肺収縮を来すと、肺が膨らまなくなるためそれを反映して吸気時間が短縮します。それは肺胞呼吸音を聴診した際に明らかです。吸気の短縮がある場合は線維化が強い、ある程度進行した間質性肺炎もしくは肺線維症と判断できます。
吸気時間を意識する・イメージ

③肺胞呼吸音の気管呼吸音化を意識する。

肺胞には高い音を吸収してしまう音響フィルターの機能が備わっているという事を正常呼吸音の時にお話ししました。(下図)
肺胞呼吸音の気管呼吸音化を意識する・参考イメージ

肺胞が壊れている場合、肺胞呼吸音が聞こえるはずの聴診部位で高い音が聴取されるという現象が起きます。この現象を肺胞呼吸音の気管呼吸音化と言います。間質性肺炎や肺線維症などで聴取された場合は線維化が強く、かなり進行している状態であると考えられます。
さらに肺が収縮している場合は横隔膜の位置が挙上することも確認しておくと良いと思います。

これらのポイントを意識しながら聴診することで、患者さんの肺の状態、呼吸状態がある程度把握でき、予後の予測にもつながります。

間質性肺炎があった時に肺以外で診るべきところ

肺病変のある患者さんを診察する時には肺以外に呼吸補助筋ばち指の有無も合わせて診ておくと良いと思います。

1)呼吸補助筋の観察

私たちの肺が膨張・収縮をするためには①横隔膜の下降・上昇運動による胸腔の上下径の増減②肋骨の上下運動による胸腔の前後系の増減という二つの方法を利用しています。正常な安静呼吸はほぼ①の方法で行われますが、呼吸補助筋を使用して②のように胸郭を広げることもできます。

呼吸補助筋の観察・参考イメージ

呼吸補助筋のうち診察を行う上で覚えておいた方が良いのは胸鎖乳突筋と斜角筋群です。
胸鎖乳突筋は側頭骨の乳様突起から胸骨丙の鎖骨近位部に伸びる筋肉で、胸骨を上向きに引き上げる筋肉です。次に斜角筋ですが、斜角筋は前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋の3つがあり、前斜角筋・中斜角筋は第1肋骨を後斜角筋は第2肋骨を上に引き上げる筋肉です。

胸鎖乳突筋と斜角筋群・参考イメージ

間質性肺炎や肺気腫といった慢性呼吸不全のある患者さんはこれらの呼吸補助筋が肥大してきます。間質性肺炎に関しては、胸鎖乳突筋よりも斜角筋の活動性が高いと言われており、胸鎖乳突筋とともに斜角筋の触診も重要です。斜角筋は胸鎖乳突筋の後縁、僧帽筋の前縁、鎖骨の中央部1/3で囲まれる後頸三角の奥に触知する事が出ます。写真は間質性肺炎の患者さんの斜角筋ですが、触診せずとも肥大しているのが目に見えますね。

胸鎖乳突筋と斜角筋群・参考イメージ
また、これら呼吸補助筋は正常であれば普段使用することはないため、吸気時に収縮していること自体が異常です。呼吸補助筋の使用は一般的には慢性閉塞性肺疾患の検出に対してLR+3.3と診断に有用な所見と言われますが、間質性肺炎に関しても同様の事が言えると思います。(マクギーのフィジカル診断学)

2)ばち指の観察

次にばち指の観察です。ばち指とは指末節の結合組織が無痛性、局在性に増大する所見で、通常は対称性に出現し、足趾より手指で多い所見と言われます。定義が一応決まっており、①指節間の太さの比が1以上、②爪床角が190度以上、③Schamroth徴候陽性と言われます。このうち①、②に関して(下図左A)は知識としては知っておいても良いかと思いますが、長さを図って比を見たり、角度を図ったりするのは実臨床ではかなり使い勝手が悪いように思うので、簡単な理解で十分です。ぱっと①②を見て③Schamroth徴候から判断しています。

ばち指の観察・イメージ

ここで本題から少しずれますが、ばち指の病態についてお話しておきます。ばち指になる原因はいまだ良く分かっていませんが、主病態は血管結合組織量の増加と言われており、Dickinsonらが病態について報告しています(Lancet. 1987;330:1434–5.)。

ばち指の病態について・参考イメージ
巨核球は骨髄から遊走し、体静脈を通って肺毛細血管へ到達します。そこで一部がちぎれて血小板になります。この循環の中で肺毛細血管が障害されている病態(間質性肺炎含む炎症性疾患、悪性疾患、血管奇形、左―右シャントなど)があると巨核球が肺循環を通過し指の遠位に到達、指の毛細血管に補足されます。補足されたところでPDGF(Platelet-Derived Growth Factor:間葉系細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞など)の遊走や増殖に関与)やVEGF(vascular endothelial growth factor:血管新生を促進するタンパク質)を放出し線維血管系の増殖が起こり、ばち指を来すと言われます。この際、手指よりも足趾の方が遠いので、足趾にはばち指は起こりにくいと考えられます。これが、ばち指が足より手に多い所見と言われる所以です。(Acta Clin Belg 2016 Jun;71(3):123-30.)ちなみに肺気腫ではばち指にならないと言われており、肺気腫の患者さんにばち指を認めたら肺がんを疑います。ばち指は原因疾患を適切に治療すれば消退するため、治療の効果判定になるので、定期的に確認すると良いと思います。

Coarse cracklesを考察する

Coarse cracklesを考察する・参考イメージ

次にcoarse cracklesについて考えていきます。
Coarse cracklesはfine cracklesと比較して音は粗く低い、「プツプツ」「ブツブツ」「ゴロゴロ」という音です。その音の発生は、空気が気道を通過した際に分泌物がはじける音と閉塞していた末梢気道が吸気に伴い突然開放した時の開放音です。聴取される代表的な病態が細菌性肺炎です。
 肺炎に関して、コモンな疾患ですので肺の生理学的・解剖学的な機能から少し病態を考えておきます。肺炎を理解するにあたり、まず気道の解剖と感染防御機構についてお話しておきます。

我々の気道は鼻腔、喉頭から始まり気管→気管支→細気管支→呼吸細気管支ときて肺胞管、肺胞となります。その間で23分岐すると言われています。ここで、口から気管支までを上気道、細気管支から肺胞までを下気道と臨床的に定義します。上気道は空気の通り道、下気道はガス交換の場です。肺炎は下気道の炎症ですので細気管支から肺胞に炎症を来す疾患です。

気道について・参考イメージ

気道には感染を防ぐための防御機構が備わっています。
 まず、微生物の最初の侵入門戸は鼻腔です。鼻腔の入り口には鼻毛があり、ここが最初のトラップになっており、ここで大きな粒子を捕捉します。その奥は上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介といった複雑な構造になっており、ここで空気の乱流を作ることにより異物を粘膜へ捕捉し咽頭へ移送し嚥下されるようになっています。(咽頭への移送に一役買っているのが鼻腔の上皮に絨毯のように敷き詰められている線毛です。線毛は毎秒10-20回の波動を繰り返しており、鼻腔内の線毛は(下流方向)咽頭方向へ、肺の線毛は上流方向へ波動します。) 鼻腔の奥に待っているのは活性化されたリンパ球の大群が控えている扁桃腺があります。ここは感染防御の最初の砦であり多数の扁桃腺を配置しており、それらを合わせてワルダイエル咽頭輪と言います。ここで、扁桃腺だけではなく咽頭後壁にも活性化されたリンパ球が多数存在していることから咽頭自体がリンパ組織と言っても過言ではありません。

ワルダイエル咽頭輪・参考イメージ

咽頭からさらに奥に入ると上気道が待っています。ここからは気道が幾重にも分岐し迷路のようになります。気管支が分岐していることにより異物を捕まえることができ、あとは線毛上皮による浄化作用と咳嗽で外へ異物を追い出します。その後下気道に入り、終末細気管支以降になると、ここまで活躍してきた線毛もなくなります。そして、この先を守っているのは肺胞マクロファージです。ここまで侵入した微生物はマクロファージに貪食され排除されます。
このように、気道には微生物や異物から体を守るために厳重な防御システムを構築しています。少し長くなりましたが、これらの防御システムが破綻すると細菌が肺胞まで到達し、肺胞マクロファージに貪食され免疫応答を起こします。この場合好中球が肺胞内に遊走し、肺胞内を充満する形で病変が伸展します。その結果、気道の分泌物(喀痰)が増えるためcoarse cracklesを聴取するわけです。
ここで一つ特殊な菌であるマイコプラズマについて触れておきます。マイコプラズマは一般的な肺炎を起こす細菌とは異なり、感染する部位は線毛です。線毛は上でお話した通り終末細気管支までしかありません。つまりは、感染しても肺胞マクロファージを刺激しにくいため分泌物や炎症物質はそれほど増えず、末梢まで炎症が届かないため体表からの聴診所見に乏しい、線毛が元気な方が感染しやすいため若者に多いといった特徴があるわけです。非定型肺炎の診断に使用する基準もこれで説明可能です。
このように細菌性肺炎はcoarse cracklesを聴取しますが、肺胞の機能が障害されているため「肺胞呼吸音の気管呼吸音化」も生じるので、合わせて評価できると良いと思います。

呼吸相を意識して改善を判定する

先にfine cracklesは呼吸相を意識して聴診する事が重要とお話しましたが、coarse cracklesも同様です。呼吸相を意識することで治療効果の判定が可能です。細菌性肺炎では、感染の初期はearly inspiratory cracklesとなりますが、治癒過程ではlate inspiratory cracklesへ時相が変化します。(下図)さらに、炎症の改善に伴い気道の浮腫は改善しますが、炎症細胞は残存していると考えられています。そのため、肺は乾燥すると、その一部でコンプライアンスが低下し、分節性に気道の虚脱が生じるためfine cracklesを聴取するようになります。つまりは肺炎の治療に伴い聴診所見はearly inspiratory crackles(coarse crackles)→late inspiratory crackles(coarse crackles)→fine cracklesと変化していきます。このように呼吸相と病態を意識した聴診は治療効果を判定するにあたり非常に重要です。
呼吸相を意識して改善を判定する・参考イメージ
以上のように聴診所見を解剖学的、組織学的に理解すると考察が深くなり、さらには誤診が減るように思います。「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。

<今回のまとめ>

  1. 聴診を行う際は解剖学的な理解をする。
  2. 断続性ラ音は呼吸相を意識して聴診する。
  3. 聴診所見だけでなく聴診以外の所見も合わせて肺の状態を評価し、病態を推測する。

今回は肺の聴診(副雑音②断続性ラ音)について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。
最後にもう一度言いますが、「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。
身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は心臓の聴診(正常心音)について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 あすかホームケアクリック院長より

「はじめまして、あすかホームケア院長の黒木です」
こんにちは、この度、あすかホームケアクリニックの院長に就任いたしました、黒木卓馬と申します。専門は脳神経内科で、総合内科専門医も取得しています。
大学病院では多くの神経難病など慢性期疾患の方はもちろんのこと、救急外来で多くの急性期疾患の方の診療にも携わってきましたが、学生時代から患者さんと密に関わることができる地域医療に興味があり、学位を取得した後は在宅医療に携わってきました。
そのような経験を活かすべく当院では、いつでも気軽に相談できる、困った時には頼りになる、地域の中でそんな存在であり続けたいと思い日々診療に当たっています。地域の皆様にとって、心強い支えとなり、安心して生活できるような医療を提供したいと考えています。
明るくも真摯に、地域の皆様と共に医療に取り組でいき、皆様の健康的でより良い生活の支えとなるよう尽力して参ります。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

あすかホームケアクリニック
院長 黒木卓馬

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聴診器・キーホルダーイメージ

 第2回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました

2023年12月7日に第2回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました。

今回は「一から知ろう!パーキンソン病」というテーマで脳神経内科センター長の大中先生にレクチャーをしていただきました。

城南地区ネット

今回もパーキンソン病をテーマにグループワークを交えた勉強会を行いました。実際の患者さんのケースを元に、患者さんが困っている症状は何か、日常生活のどこに不自由しているのかなどみなさん積極的に討議に参加していただき、とても有意義な会ができたかと思います。個人的には藤元先生のジスキネジアのクオリティにびっくりしました。また、パーキンソン病と口腔状態というテーマで歯科の郡司先生にもお話しをいただきました。嚥下障害の疑似体験、とても勉強になりました。

第2回城南地区在宅医療ネットワーク①
第2回城南地区在宅医療ネットワーク②
第2回城南地区在宅医療ネットワーク③
第2回城南地区在宅医療ネットワーク④
第2回城南地区在宅医療ネットワーク⑤

2040年問題という大きな壁が立ちはだかる状況ですが、城南地区の在宅医療へ関わるスタッフの方々の熱い思いがあればきっと良いネットワークができ、総力戦で乗り切ることができると確信しています。

今回集まっていただいた方々だけでなく、たくさんの人とのご縁を大切にして全国へ発信できる在宅医療ネットワークを目指していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

城南地区在宅医療ネットワーク 責任者 
教育委員長 リウマチ・膠原病センター 古屋秀和

 第10回 Houyukai Link Lectureを開催しました!

2023年11月30日に「第10回 Houyukai Link Lecture」を開催しました。
今回は脳神経内科センター 長谷川幸祐先生に担当していただきました!

今回のテーマは。。
「自律神経とレビー小体病」
自律神経異常の病態生理からαシヌクレイン蛋白の異常沈着によるレビー小体沈着と疾患の表現型の違いまで、レビー小体病という疾患スペクトラムについて詳しくお話ししていただきました!

長谷川先生の講義風景

長谷川先生の講義風景

今回の要点
普段なかなか聞くことのできない神経疾患の詳しいところを聞くことができてとても勉強になりました!そして、レビー小体病の考え方と抗核抗体陽性の疾患群の考え方って似ているなあとこっそり思いました。

  • パーキンソン病やレビー小体型認知症は、レビー小体が沈着するという点でレビー小体病としてまとめられる
  • レビー小体の正体はαシヌクレイン蛋白の異常沈着による
  • レビー小体が体のどの部位に沈着するかで症状に違いがみられる
  • 自律神経症状はレビー小体病の前駆症状として重要である

荏原ホームケアクリニックでは各センター間や医師・アシスタント間の垣根を越えて、ともに成長し、良質な医療者を輩出するための取り組みをしています。その一つの取り組みとしてのHouyukai Link Lectureも3ヶ月に1回定期的に開催していく予定です。これからも学びを止めることなく日々研鑽を積んでいきたいと思います。

今後もスタッフ一同高いモチベーションを持ち頑張っていきます!

 謎解きゲームをしていたら、よく見かける場所が〇〇だった発見!

散歩と食べ歩きが好きで、休日は運動がてら1時間以上の散歩に出かけます。
最近は謎解きゲームが好きで、先日都内の美術館を巡りながら謎を解くゲームに参加してきました。

謎解きを進めていくと、「次は目黒駅で下車」の指示が。
ん?目黒駅に美術館ってあったかしら?寄生虫館しか知らないなぁ。
と疑問に思いながら目的地へ歩いていくと・・・

いつも診察の移動で通り過ぎる大通りが見えてきました。
緑が多く気持ちよさそうな公園だと思っていた場所が実は「東京都庭園美術館」だと判明!
驚いてGoogleマップを二度見しました。
庭園美術館だったのか・・・!

診療アシスタントとして入職し、車の運転を日常的にするようになってから街を見る景色が変わった気がします。
駅から離れており交通の便は車が良さそうなカフェを発見した時は、どんなお客さんが来るのか気になり、次の休みに行く計画を立てたり。

大通りから一本入った小道に地元の人で賑わうパン屋やカフェを見つけたりすると、新しい世界を発見できたような楽しさがあります。
写真のお菓子はずっと気になっていたチョコレート専門店「CACAOCAT」で購入したチョコレート。
真ん中にフレーバーソースが入っており、美味しかったです。

チョコレート写真

 アシスタントの同行ファッション例(春・夏)

オールシーズン共通で「動きやすさ重視」のファッションになっていると思います。
トップスは襟付きのポロシャツor医療用スクラブ。下はズボン。
寒暖の差がまだある春・近年は酷暑で暑さと紫外線対策の夏。
この2シーズンのファッション例を一部としてご紹介していきます。

春のファッション例
暖かい日が多くなってきつつも油断するとまだ寒い日もあったりします。
薄めの上着とインナーにヒートテックを着用。
暑い日はヒートテックなし。半袖に上着で同行に出たりします。
私は上着のポケットにアルコール綿やビニール袋などサッと取り出せるものを入れているので、上着はどの季節でも必須アイテムになっています。

春のファッション・コーディネートイメージ

夏のファッション例
近年は酷暑!!36.0℃以上の外を歩いたり、階段を上ったり・・・外にいるだけで体力を消耗が激しいです。
私が幼かったころと比べると気温が違いすぎると思います。
サラッと着れるスクラブ、日焼け対策でアームカバー。
帽子をかぶって同行に出ていくスタッフもいました。

夏のファッション・コーディネートイメージ

写真のスクラブは脇の部分がメッシュになっているので発汗性がとっても良いです!

通勤時、駅からクリニックまでの距離も日傘をさしてます。強い日差しを遮るだけでも歩くのが少し楽になります。
最近は雨傘兼用の日傘、軽量化された日傘、紫外線カットに強化された日傘など沢山の種類を見かけます。
窓を開けて換気するのも大事ですが、外の風が熱風の時もあるので・・・冷房25.0~27.0℃設定で涼む方が体には良いかもしれませんね。

次回は秋・冬のファッション例をご紹介★

追伸:
スクラブという言葉を知らず、先輩に質問した記憶があります。
改めてスクラブとはどんな意味なのか調べてみました。

“半袖で首元がVネックとなっている医療用白衣のことを指す。
主に医療従事者が着用する。「ごしごし洗う」といった意味である「スクラブ」を語源としており、頑丈な素材が使用されているため、強く洗っても生地が傷みにくいことが特徴である。また、従来型の白衣よりもカラーバリエーションが豊富であり、病院内でのチーム分けや患者からの視認性向上のために使用される場面も多い。“ Wikipedia参照。

カラーバリエーションが豊富のようなので、これからは先生方のスクラブファッションにも着目してみようと思います!

 肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~

※本ブログを執筆した古屋医師は2021年4月~2025年3月まで鳳優会に在籍

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。 前回「正常呼吸音」についてお話させていただきましたが、今回から副雑音についてお話しようと思います。副雑音1回目は連続性ラ音です。連続性ラ音を理解するためには解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学の知識が必要です。ここをしっかり理解すると病態の考察が深くなります。今回の目標は「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」です。

胸部の解剖 肺の位置

前回も解剖の確認をしましたが、重要な事なので再度肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。
解剖を知ることは聴診において重要な事です。例えば中葉の気管支拡張症、下葉の間質背肺炎、気道内異物など好発部位がある疾患と部位の特定が必要な病態に関しては聴診上最強点の同定する必要があります。対して細菌性肺炎の細かい部位に関しては同定する必要はなく(かなり難しいとは思いますが仮に同定できても治療はほとんど変わりません。右か左かだけで十分です。)、むしろ緊急性の評価を行い早急に対応する事の方がもっと重要です。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ
肺・気管支の細かい解剖や組織学的な特徴は病態を考えながら適宜説明していきます。

副雑音の分類

今回は連続性ラ音についてお話していきますが、そもそもラ音とは何でしょうか。肺胞呼吸音由来の副雑音の事をドイツ語でRasselgeräuschと表記します。それを語源として、昔の日本では副雑音の事をラッセル音と言っていました。それを略してラ音です。背景を知らないと意味が分からない言葉がたくさんあります。日本人は略語が好きですね。
まずは副雑音の分類から見ていきます。
イメージ:副雑音の分類
副雑音は連続性ラ音、断続性ラ音に分けられます。今回は連続性ラ音についてお話します。 連続性ラ音とはその名の通り連続している雑音の事です。連続性ラ音はさらにstridor、squawk、wheezes、rhonchiに分類されます。実は、国際肺音学会(ILSA:the International Lung Sounds Association)でも呼吸音に関しては一定のコンセンサスは定まっておらず、日本人医師である三上医師の提唱した案が一般的に使用されており、いまだに1987年の三上医師の論文が参考文献に登場します。このことから、肺音に関してはものにより分類が多少異なりますが、今回はアメリカ胸部学会(American Thoracic Society : ATS)の推奨を参考にして、上の表のような分類で進めていきます。

連続性ラ音の発生機序

連続性ラ音とはATSの提案では250ms以上持続する雑音としていますが、「ある程度長く続く高い音もしくは低い音」程度の理解で十分です。その発生機序ですが、気道の一部に狭窄が生じると、その部位で気流速度が上がりますが、気流と気道壁の相互作用(振動)により音が発生すると言われています。要するに口笛と同じです。口をすぼめて息を吐きだすとピーと音がしますが、気管支も狭窄するとピーと音がするわけです。音の発生源は呼吸音と同じく乱流領域です。
イメージ:連続性ラ音の発生機序
基本的には胸腔内が陽圧になるときに気管支は押しつぶされて狭窄が強くなるので、聴取されるのは呼気時です。しかし、狭窄が強くなり、より重症な病態になれば吸気時にも聴取されます。それに対して、Stridorは吸気時のみに聴取されるものですが、その考え方は下記の通りです。

Stridorとは?

連続性ラ音の分類をもう一度見てみましょう。これらの所見を大きく二つに分けるとしたら下の通りになります。
イメージ:連続性ラ音の分類

このように、大きく分けるとstridorとそれ以外になります。これは、病変部位が胸腔内か胸腔外かで分けています。病変が胸腔外であればstridor、他はすべて胸腔内の病態で得られる所見です。
Stridorは声帯よりも上部の気道の狭窄が生じた際に聴取される音で、音の聞こえ方としてはwheezesと同様です。wheezesとの違いは①吸気時に聴取②頚部で最強という事です。この違い、特に吸気時に聴取される理由は下の図の通りです。まず吸気時には横隔膜が収縮する事で胸腔内が陰圧になります。それに伴い胸腔内に空気が引き込まれ、引っ張られるような形で胸腔外の気道はへこむ訳です。

イメージ:Stridor
Stridorが聴取されたら病変は喉のあたりになるので、鑑別は急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫、気道異物、小児ならクループなどです。危ない病態も隠れているので評価は慎重に行う必要があります。ただし、注意点としては喘息のwheezesはじめ他の疾患でも吸気時の連続性ラ音は聴取される事があるため最強点がどこなのかというのもしっかり評価が必要です。

rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測する!

ここからはrhonchiとwheezesの話をしていきますが、それに伴いまず気管・気管支の解剖、組織学的な特徴を確認します。気管や気管支は平滑筋という筋肉でできている管腔臓器であるため、広がったり縮んだりします。しかし、過度に広がったり縮んだりすると問題が生じるので、それを制御する機能があります。その一つが気管軟骨です。気道の解剖を見てみると中枢気道(気管)とそれ以降の気管支の構造が違うことに気づきます。気管軟骨は気管ではC字型で気管をしっかり取り巻いていますが、主気管支から葉気管支以降になると軟骨はまばらになります。このまばらな軟骨の事を軟骨片と言います。軟骨は終末細気管支より抹消ではなくなり、肺胞管、肺胞となります。なぜこのような構造になっているのかというと、気管はつぶれたら死んでしまうのでしっかり固める、肺へ向かう気管支は空気を効率よく肺胞まで送り出す必要があるためある程度拡張するようになっています。終末細気管支以降はガス交換を行うところなので、軟骨があると逆に効率が悪くなるので軟骨はありません。気道は中枢の方は固くできていますが、抹消にいけばいくほど柔らかくなっているという事です。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測
また、気管支や肺は拡張したり縮んだりした後に元の形に戻るようになっています。気管支や肺は形状記憶できるようになっており、それをさせているのが弾性繊維です。気管や気管支は弾性繊維を巻き付けながら走行しており、過度な形の変化を防いでいます。また、交感神経と副交感神経が気管支に並走しており、その調節に関与しています。緻密に計算された非常によくできた臓器です。

その気管支が狭窄することで生じる音がwheezesやrhonchiです。音の特徴としては、wheezesは高い音でrhonchiは低い音になります。その音の違いは狭窄している気管支の太さによります。これは口笛を想像すると理解がしやすいと思います。例えば、高い音を口笛で出したいときは口をとがらせますが、低い音を出したいときは少し口を開きます。同じように細い気管支が狭窄すると高い音(wheezes)が、太い気管支が狭窄すると低い音(rhonchi)が聴取されるといった具合です。
イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測・肺胞

Stridorの時は吸気時に狭窄が強くなるため、聴取されるのは吸気時でしたが、wheezesとrhonchiは吸気呼気ともに聴取されます。胸腔内の気管支は胸腔内が陽圧になると狭窄が強くなるため呼気時に聴取する(下図)というのが原則ですが、病態によっては吸気時にも聴取されます。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測

例えば気管支喘息の発作が起きた時を考えます。先ほど確認した通り気管支は末梢にいけばいくほど柔らかくなるので、末梢の方から狭窄していきます。発作のごく初期の非常に軽いフェーズでは狭窄も軽度であるため通常の呼吸では連続性ラ音は聴取されません。このフェーズで発作を捕まえるためには強制呼出をさせ胸腔内を強制的に強い陽圧にすることで誘発されるwheezesを聴取し、診断します。さらに狭窄が強くなれば平静呼気時に聴取されるようになり、いずれは吸気時にも聴取されます。吸気時に聴取される病態としては、胸腔内が陰圧になり、胸腔内の気管支が拡張する訳ですが、それでも狭窄が解除されないほど進行している状態ということになります。また、発作が重症であればあるほど狭窄している気管支も、より太い気管支まで障害されるためwheezesとrhonchiが混在したような音が聴取されるようになります。最重症の状態になるとラ音が聴取されなくなります。(連続性ラ音が発生するためには十分な空気の流速が必要であり、狭窄が非常に強い場合は十分な流速が確保できないのでラ音が消失します。)フェーズにより聴診所見は変化しますが、それを重症度として分類したものがJónsson分類 です。これを用いて「〇度のwheezesを聴取」のように記載します。

グラフイメージ:Jónsson分類

さらにwheezesを聴取する疾患は気管支喘息だけではありません。細い気管支が狭窄すれば音が発生するため、細い気管支が狭窄する病態を考えます。代表的な疾患が心不全・肺水腫です。左室ないしは左房圧の上昇により、肺毛細血管圧が上昇。血症浸透圧を越えて肺毛細血管圧が上昇すると肺の間質に水が溜まります。その水が末梢気道を圧迫することで気管支狭窄が起き、wheezesが聴取されます。(下図)

イメージ:心不全・肺水腫
Wheezes=気管支喘息と決めつけてしまうと心不全であったときに痛い目を見ます。発作と考えステロイド+β刺激薬+場合によりアドレナリン。。。すべて心不全を悪化させる治療ですから、判断は慎重に行う必要があります。心不全を見抜くには他の視診、触診、心音に加え既往歴、内服歴などを考慮し総合的に判断することが必要です。
次にrhonchiについて見ていきます。rhonchiを呈する疾患の代表格は肺気腫です。肺気腫は肺胞構造が破壊され肺が過膨張の状態になる疾患であると学生の時は教わりました。また、肺気腫は慢性閉塞性肺疾患と言われており、学生の時は過膨張するのに閉塞ってどういう事??って思ったものです。それを理解するため、肺気腫の病態を下の図で簡略化して説明しておきます。
イメージ:肺気腫の病態
原因はみなさんご存じタバコです。有害なタバコの粒子が肺胞へ到達すると①肺胞マクロファージに貪食され炎症性メディエーターが放出されます。それに伴い②好中球が遊走し③タンパク分解酵素を放出します。④それにより破壊されるのがエラスチンと呼ばれる弾性繊維です。エラスチンは先ほど解剖の確認でも登場した形状記憶するために必須の構造なので、そのエラスチンが破壊されると肺胞は通常の構造を保つことができず膨れ上がり壊れます。ただし、我々の体にはタンパク分解酵素を抑制してくれるα1アンチトリプシンという防御機構がありエラスチンが破壊されるのを防いでくれるので肺気腫にはならないようになっています。しかし、喫煙自体がα1アンチトリプシンの活性を低下させてしまうため、日常的に喫煙している方は肺が壊れやすくなってしまいます。タバコは百害あって一利なしです。
イメージ:肺気腫の病態

肺が過膨張になると、①肺胞が絶えず外側に膨れ上がろうとするので、②その分空気が気管支側から引き込まれます。それに伴い③比較的太い気管支が引っ張られて狭窄するためrhonchiが聴取されるという事です。さらには慢性の気道炎症と気管支壁の肥厚、分泌物の増加などもrhonchiの原因の一助となっています。
ちなみに気道の分泌物(痰)のみでもrhonchiを聴取しますが、咳をしてもらうと音が変化する(うまくいけば消える)事で分かります。また痰の場合は単音性(monophonic)(下でお話します)になる事が多く、閉塞性肺疾患の病態とは分けることが可能です。

単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)を意識する

連続性ラ音を聴診、評価する際に単音性(monophonic)、多音性(polyphonic)という考え方が重要です。ある一部で聞こえる単一の音を単音性(monophonic)と言い「ピー」という感じで聞こえます。そして、どこで聞いても聞こえる、たくさんの音が一斉に始まり一斉に終わる(厳密には少しずれますが)「ビュービュー」みたいな音が多音性(polyphonic)と言います。これは擬音語で表現するのはかなり無理があるのでyoutubeや教科書(川城丈夫 先生の「CDによる聴診トレーニング 呼吸音編 改訂第2版」 、皿谷健先生の「まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで」がおすすめです!)を活用して実際に聞いてみるのが良いと思います。 単音性と多音性を区別するのはなぜかというと、聞こえ方により鑑別診断が全然変わってくるからです。たとえば単音性のwheezesを聴取した場合に気管支喘息の疑いと言えるでしょうか。単音性というのはある一部の気管支が狭窄していることを示唆するので、気管支喘息のようにびまん性に狭窄が生じる疾患の可能性は低いでしょう。どちらかというと、気道内異物や喀痰、肺腫瘍による圧迫・狭窄などが鑑別に上がると思います。(ちなみに吸気・呼気のどちらでも一定の単音性のラ音が聴取される場合は、より肺腫瘍の存在を疑うことになります。)rhonchiも同様です。
イメージ:単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)

ここまで連続性ラ音について見てきましたが、聴診して診断名を決めるというよりは、聴診所見を考察して病態を考える事が重要です。診断を焦るのは誤診の元になります。聴診所見から音の高いor低い、単音性or多音性を確認してどこに狭窄がどの程度の範囲にあるのかを推測し、その病態を考え、自分が考えている診断と矛盾がないかを照らし合わせるというステップを毎回踏む必要があります。病態により対応は全く異なります。(気道内異物と気管支喘息の発作では全く違いますね。)

squawkは解剖学的理解の応用編

私はリウマチ膠原病内科なので関節リウマチの患者さんを多く診察しているのですが、関節リウマチの患者さんは気管支拡張症の合併が多く、診察の際も良く遭遇します。気管支拡張症で聴取される頻度の高い所見がsquawkです。Squawkとは吸気時のcrackleに続くshort wheezesであり、その機序は下記の図の通りです。
イメージ:squawk解剖学的理解
まず、気管支拡張症は①慢性気管支炎による慢性炎症に伴い、気管支の構造が破壊され拡張します。その結果②圧勾配(拡張した気管支側に引っ張られます)が生まれ、末梢の気道は狭窄(閉塞)しています。③吸気により狭窄している抹消気道が開放されcrackleが聴取され、それに引き続いて④細い気道内に強い乱流が生じるためwheezeが生じます。吸気をしていくとともに胸腔内は陰圧になり、気道も開放されていくためwheezeは消失します。(short wheeze)ただし、気管支拡張症の診断がついていない場合は、この所見から病態を推定しなければいけません。この場合も聴診所見を解剖学的、組織学的に考察し病態が推測できれば鑑別診断としての気管支拡張症も想起できます。

Squawkは気管支拡張症に特異的な所見ではなく、むしろ一般的には肺炎で聴取されることが多いと思います。肺炎により末梢気道に分泌物がつまり末梢気道が閉塞、その後吸気に伴い末梢気道が開放しshort wheezeが生じるという具合です。(ここで生じるラ音は単音性なのであえてcrackle、wheezeと単数形で記載しています。上の分類ではすべて複数形での記載になっていますが、このように単音性の場合は所見も単数形で記載する方がしっくりきますね。正直monophonic wheezesって何だか違和感あります。) 以上のように聴診所見を解剖学的、組織学的に理解すると考察が深くなり、さらには誤診が減るように思います。「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。

<今回のまとめ>

  1. 聴診を行う際は解剖学的な理解をする。
  2. 連続性ラ音の聴診は、音の高いor低い、単音性(monophonic)or多音性(polyphonic)を確認
  3. 聴診所見から診断はつけない、病態を推測する。

今回は肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。
最後にもう一度言いますが、「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。
身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は肺の聴診③副雑音~断続性ラ音~について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 2023年度日本在宅医療連合学会専門医試験のご報告

皆さん暑い日が続いていますね。緩和ケアセンターの川口です。
さて当院は様々な学会認定施設となっております。
日本在宅医療連合学会の認定施設にもなっており、専門医研修プログラムを有しております。
当院の古屋医師がプログラムを終了し本年度の専門医試験に見事合格いたしました!
ポートフォリオ作成、他の医療機関研修など日々の診療の合間の中でとても多忙な1年間だったと思います。
おめでとうございます!
これで専門医は2名となりました。
今後、在宅医療連合学会専門医を取得したい若手医師が当院に入職してくれることを期待しています。
写真ですが欠かさず筋トレをすると我々のような肉体を作ることもできます!
夏を乗り切るのは・・・筋肉です!!

日本在宅医療連合学会 専門医試験合格・写真:川口医師と古屋医師