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 謎解きゲームをしていたら、よく見かける場所が〇〇だった発見!

散歩と食べ歩きが好きで、休日は運動がてら1時間以上の散歩に出かけます。
最近は謎解きゲームが好きで、先日都内の美術館を巡りながら謎を解くゲームに参加してきました。

謎解きを進めていくと、「次は目黒駅で下車」の指示が。
ん?目黒駅に美術館ってあったかしら?寄生虫館しか知らないなぁ。
と疑問に思いながら目的地へ歩いていくと・・・

いつも診察の移動で通り過ぎる大通りが見えてきました。
緑が多く気持ちよさそうな公園だと思っていた場所が実は「東京都庭園美術館」だと判明!
驚いてGoogleマップを二度見しました。
庭園美術館だったのか・・・!

診療アシスタントとして入職し、車の運転を日常的にするようになってから街を見る景色が変わった気がします。
駅から離れており交通の便は車が良さそうなカフェを発見した時は、どんなお客さんが来るのか気になり、次の休みに行く計画を立てたり。

大通りから一本入った小道に地元の人で賑わうパン屋やカフェを見つけたりすると、新しい世界を発見できたような楽しさがあります。
写真のお菓子はずっと気になっていたチョコレート専門店「CACAOCAT」で購入したチョコレート。
真ん中にフレーバーソースが入っており、美味しかったです。

チョコレート写真

 アシスタントの同行ファッション例(春・夏)

オールシーズン共通で「動きやすさ重視」のファッションになっていると思います。
トップスは襟付きのポロシャツor医療用スクラブ。下はズボン。
寒暖の差がまだある春・近年は酷暑で暑さと紫外線対策の夏。
この2シーズンのファッション例を一部としてご紹介していきます。

春のファッション例
暖かい日が多くなってきつつも油断するとまだ寒い日もあったりします。
薄めの上着とインナーにヒートテックを着用。
暑い日はヒートテックなし。半袖に上着で同行に出たりします。
私は上着のポケットにアルコール綿やビニール袋などサッと取り出せるものを入れているので、上着はどの季節でも必須アイテムになっています。

春のファッション・コーディネートイメージ

夏のファッション例
近年は酷暑!!36.0℃以上の外を歩いたり、階段を上ったり・・・外にいるだけで体力を消耗が激しいです。
私が幼かったころと比べると気温が違いすぎると思います。
サラッと着れるスクラブ、日焼け対策でアームカバー。
帽子をかぶって同行に出ていくスタッフもいました。

夏のファッション・コーディネートイメージ

写真のスクラブは脇の部分がメッシュになっているので発汗性がとっても良いです!

通勤時、駅からクリニックまでの距離も日傘をさしてます。強い日差しを遮るだけでも歩くのが少し楽になります。
最近は雨傘兼用の日傘、軽量化された日傘、紫外線カットに強化された日傘など沢山の種類を見かけます。
窓を開けて換気するのも大事ですが、外の風が熱風の時もあるので・・・冷房25.0~27.0℃設定で涼む方が体には良いかもしれませんね。

次回は秋・冬のファッション例をご紹介★

追伸:
スクラブという言葉を知らず、先輩に質問した記憶があります。
改めてスクラブとはどんな意味なのか調べてみました。

“半袖で首元がVネックとなっている医療用白衣のことを指す。
主に医療従事者が着用する。「ごしごし洗う」といった意味である「スクラブ」を語源としており、頑丈な素材が使用されているため、強く洗っても生地が傷みにくいことが特徴である。また、従来型の白衣よりもカラーバリエーションが豊富であり、病院内でのチーム分けや患者からの視認性向上のために使用される場面も多い。“ Wikipedia参照。

カラーバリエーションが豊富のようなので、これからは先生方のスクラブファッションにも着目してみようと思います!

 肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~

※本ブログを執筆した古屋医師は2021年4月~2025年3月まで鳳優会に在籍

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。 前回「正常呼吸音」についてお話させていただきましたが、今回から副雑音についてお話しようと思います。副雑音1回目は連続性ラ音です。連続性ラ音を理解するためには解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学の知識が必要です。ここをしっかり理解すると病態の考察が深くなります。今回の目標は「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」です。

胸部の解剖 肺の位置

前回も解剖の確認をしましたが、重要な事なので再度肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。
解剖を知ることは聴診において重要な事です。例えば中葉の気管支拡張症、下葉の間質背肺炎、気道内異物など好発部位がある疾患と部位の特定が必要な病態に関しては聴診上最強点の同定する必要があります。対して細菌性肺炎の細かい部位に関しては同定する必要はなく(かなり難しいとは思いますが仮に同定できても治療はほとんど変わりません。右か左かだけで十分です。)、むしろ緊急性の評価を行い早急に対応する事の方がもっと重要です。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ
肺・気管支の細かい解剖や組織学的な特徴は病態を考えながら適宜説明していきます。

副雑音の分類

今回は連続性ラ音についてお話していきますが、そもそもラ音とは何でしょうか。肺胞呼吸音由来の副雑音の事をドイツ語でRasselgeräuschと表記します。それを語源として、昔の日本では副雑音の事をラッセル音と言っていました。それを略してラ音です。背景を知らないと意味が分からない言葉がたくさんあります。日本人は略語が好きですね。
まずは副雑音の分類から見ていきます。
イメージ:副雑音の分類
副雑音は連続性ラ音、断続性ラ音に分けられます。今回は連続性ラ音についてお話します。 連続性ラ音とはその名の通り連続している雑音の事です。連続性ラ音はさらにstridor、squawk、wheezes、rhonchiに分類されます。実は、国際肺音学会(ILSA:the International Lung Sounds Association)でも呼吸音に関しては一定のコンセンサスは定まっておらず、日本人医師である三上医師の提唱した案が一般的に使用されており、いまだに1987年の三上医師の論文が参考文献に登場します。このことから、肺音に関してはものにより分類が多少異なりますが、今回はアメリカ胸部学会(American Thoracic Society : ATS)の推奨を参考にして、上の表のような分類で進めていきます。

連続性ラ音の発生機序

連続性ラ音とはATSの提案では250ms以上持続する雑音としていますが、「ある程度長く続く高い音もしくは低い音」程度の理解で十分です。その発生機序ですが、気道の一部に狭窄が生じると、その部位で気流速度が上がりますが、気流と気道壁の相互作用(振動)により音が発生すると言われています。要するに口笛と同じです。口をすぼめて息を吐きだすとピーと音がしますが、気管支も狭窄するとピーと音がするわけです。音の発生源は呼吸音と同じく乱流領域です。
イメージ:連続性ラ音の発生機序
基本的には胸腔内が陽圧になるときに気管支は押しつぶされて狭窄が強くなるので、聴取されるのは呼気時です。しかし、狭窄が強くなり、より重症な病態になれば吸気時にも聴取されます。それに対して、Stridorは吸気時のみに聴取されるものですが、その考え方は下記の通りです。

Stridorとは?

連続性ラ音の分類をもう一度見てみましょう。これらの所見を大きく二つに分けるとしたら下の通りになります。
イメージ:連続性ラ音の分類

このように、大きく分けるとstridorとそれ以外になります。これは、病変部位が胸腔内か胸腔外かで分けています。病変が胸腔外であればstridor、他はすべて胸腔内の病態で得られる所見です。
Stridorは声帯よりも上部の気道の狭窄が生じた際に聴取される音で、音の聞こえ方としてはwheezesと同様です。wheezesとの違いは①吸気時に聴取②頚部で最強という事です。この違い、特に吸気時に聴取される理由は下の図の通りです。まず吸気時には横隔膜が収縮する事で胸腔内が陰圧になります。それに伴い胸腔内に空気が引き込まれ、引っ張られるような形で胸腔外の気道はへこむ訳です。

イメージ:Stridor
Stridorが聴取されたら病変は喉のあたりになるので、鑑別は急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫、気道異物、小児ならクループなどです。危ない病態も隠れているので評価は慎重に行う必要があります。ただし、注意点としては喘息のwheezesはじめ他の疾患でも吸気時の連続性ラ音は聴取される事があるため最強点がどこなのかというのもしっかり評価が必要です。

rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測する!

ここからはrhonchiとwheezesの話をしていきますが、それに伴いまず気管・気管支の解剖、組織学的な特徴を確認します。気管や気管支は平滑筋という筋肉でできている管腔臓器であるため、広がったり縮んだりします。しかし、過度に広がったり縮んだりすると問題が生じるので、それを制御する機能があります。その一つが気管軟骨です。気道の解剖を見てみると中枢気道(気管)とそれ以降の気管支の構造が違うことに気づきます。気管軟骨は気管ではC字型で気管をしっかり取り巻いていますが、主気管支から葉気管支以降になると軟骨はまばらになります。このまばらな軟骨の事を軟骨片と言います。軟骨は終末細気管支より抹消ではなくなり、肺胞管、肺胞となります。なぜこのような構造になっているのかというと、気管はつぶれたら死んでしまうのでしっかり固める、肺へ向かう気管支は空気を効率よく肺胞まで送り出す必要があるためある程度拡張するようになっています。終末細気管支以降はガス交換を行うところなので、軟骨があると逆に効率が悪くなるので軟骨はありません。気道は中枢の方は固くできていますが、抹消にいけばいくほど柔らかくなっているという事です。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測
また、気管支や肺は拡張したり縮んだりした後に元の形に戻るようになっています。気管支や肺は形状記憶できるようになっており、それをさせているのが弾性繊維です。気管や気管支は弾性繊維を巻き付けながら走行しており、過度な形の変化を防いでいます。また、交感神経と副交感神経が気管支に並走しており、その調節に関与しています。緻密に計算された非常によくできた臓器です。

その気管支が狭窄することで生じる音がwheezesやrhonchiです。音の特徴としては、wheezesは高い音でrhonchiは低い音になります。その音の違いは狭窄している気管支の太さによります。これは口笛を想像すると理解がしやすいと思います。例えば、高い音を口笛で出したいときは口をとがらせますが、低い音を出したいときは少し口を開きます。同じように細い気管支が狭窄すると高い音(wheezes)が、太い気管支が狭窄すると低い音(rhonchi)が聴取されるといった具合です。
イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測・肺胞

Stridorの時は吸気時に狭窄が強くなるため、聴取されるのは吸気時でしたが、wheezesとrhonchiは吸気呼気ともに聴取されます。胸腔内の気管支は胸腔内が陽圧になると狭窄が強くなるため呼気時に聴取する(下図)というのが原則ですが、病態によっては吸気時にも聴取されます。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測

例えば気管支喘息の発作が起きた時を考えます。先ほど確認した通り気管支は末梢にいけばいくほど柔らかくなるので、末梢の方から狭窄していきます。発作のごく初期の非常に軽いフェーズでは狭窄も軽度であるため通常の呼吸では連続性ラ音は聴取されません。このフェーズで発作を捕まえるためには強制呼出をさせ胸腔内を強制的に強い陽圧にすることで誘発されるwheezesを聴取し、診断します。さらに狭窄が強くなれば平静呼気時に聴取されるようになり、いずれは吸気時にも聴取されます。吸気時に聴取される病態としては、胸腔内が陰圧になり、胸腔内の気管支が拡張する訳ですが、それでも狭窄が解除されないほど進行している状態ということになります。また、発作が重症であればあるほど狭窄している気管支も、より太い気管支まで障害されるためwheezesとrhonchiが混在したような音が聴取されるようになります。最重症の状態になるとラ音が聴取されなくなります。(連続性ラ音が発生するためには十分な空気の流速が必要であり、狭窄が非常に強い場合は十分な流速が確保できないのでラ音が消失します。)フェーズにより聴診所見は変化しますが、それを重症度として分類したものがJónsson分類 です。これを用いて「〇度のwheezesを聴取」のように記載します。

グラフイメージ:Jónsson分類

さらにwheezesを聴取する疾患は気管支喘息だけではありません。細い気管支が狭窄すれば音が発生するため、細い気管支が狭窄する病態を考えます。代表的な疾患が心不全・肺水腫です。左室ないしは左房圧の上昇により、肺毛細血管圧が上昇。血症浸透圧を越えて肺毛細血管圧が上昇すると肺の間質に水が溜まります。その水が末梢気道を圧迫することで気管支狭窄が起き、wheezesが聴取されます。(下図)

イメージ:心不全・肺水腫
Wheezes=気管支喘息と決めつけてしまうと心不全であったときに痛い目を見ます。発作と考えステロイド+β刺激薬+場合によりアドレナリン。。。すべて心不全を悪化させる治療ですから、判断は慎重に行う必要があります。心不全を見抜くには他の視診、触診、心音に加え既往歴、内服歴などを考慮し総合的に判断することが必要です。
次にrhonchiについて見ていきます。rhonchiを呈する疾患の代表格は肺気腫です。肺気腫は肺胞構造が破壊され肺が過膨張の状態になる疾患であると学生の時は教わりました。また、肺気腫は慢性閉塞性肺疾患と言われており、学生の時は過膨張するのに閉塞ってどういう事??って思ったものです。それを理解するため、肺気腫の病態を下の図で簡略化して説明しておきます。
イメージ:肺気腫の病態
原因はみなさんご存じタバコです。有害なタバコの粒子が肺胞へ到達すると①肺胞マクロファージに貪食され炎症性メディエーターが放出されます。それに伴い②好中球が遊走し③タンパク分解酵素を放出します。④それにより破壊されるのがエラスチンと呼ばれる弾性繊維です。エラスチンは先ほど解剖の確認でも登場した形状記憶するために必須の構造なので、そのエラスチンが破壊されると肺胞は通常の構造を保つことができず膨れ上がり壊れます。ただし、我々の体にはタンパク分解酵素を抑制してくれるα1アンチトリプシンという防御機構がありエラスチンが破壊されるのを防いでくれるので肺気腫にはならないようになっています。しかし、喫煙自体がα1アンチトリプシンの活性を低下させてしまうため、日常的に喫煙している方は肺が壊れやすくなってしまいます。タバコは百害あって一利なしです。
イメージ:肺気腫の病態

肺が過膨張になると、①肺胞が絶えず外側に膨れ上がろうとするので、②その分空気が気管支側から引き込まれます。それに伴い③比較的太い気管支が引っ張られて狭窄するためrhonchiが聴取されるという事です。さらには慢性の気道炎症と気管支壁の肥厚、分泌物の増加などもrhonchiの原因の一助となっています。
ちなみに気道の分泌物(痰)のみでもrhonchiを聴取しますが、咳をしてもらうと音が変化する(うまくいけば消える)事で分かります。また痰の場合は単音性(monophonic)(下でお話します)になる事が多く、閉塞性肺疾患の病態とは分けることが可能です。

単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)を意識する

連続性ラ音を聴診、評価する際に単音性(monophonic)、多音性(polyphonic)という考え方が重要です。ある一部で聞こえる単一の音を単音性(monophonic)と言い「ピー」という感じで聞こえます。そして、どこで聞いても聞こえる、たくさんの音が一斉に始まり一斉に終わる(厳密には少しずれますが)「ビュービュー」みたいな音が多音性(polyphonic)と言います。これは擬音語で表現するのはかなり無理があるのでyoutubeや教科書(川城丈夫 先生の「CDによる聴診トレーニング 呼吸音編 改訂第2版」 、皿谷健先生の「まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで」がおすすめです!)を活用して実際に聞いてみるのが良いと思います。 単音性と多音性を区別するのはなぜかというと、聞こえ方により鑑別診断が全然変わってくるからです。たとえば単音性のwheezesを聴取した場合に気管支喘息の疑いと言えるでしょうか。単音性というのはある一部の気管支が狭窄していることを示唆するので、気管支喘息のようにびまん性に狭窄が生じる疾患の可能性は低いでしょう。どちらかというと、気道内異物や喀痰、肺腫瘍による圧迫・狭窄などが鑑別に上がると思います。(ちなみに吸気・呼気のどちらでも一定の単音性のラ音が聴取される場合は、より肺腫瘍の存在を疑うことになります。)rhonchiも同様です。
イメージ:単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)

ここまで連続性ラ音について見てきましたが、聴診して診断名を決めるというよりは、聴診所見を考察して病態を考える事が重要です。診断を焦るのは誤診の元になります。聴診所見から音の高いor低い、単音性or多音性を確認してどこに狭窄がどの程度の範囲にあるのかを推測し、その病態を考え、自分が考えている診断と矛盾がないかを照らし合わせるというステップを毎回踏む必要があります。病態により対応は全く異なります。(気道内異物と気管支喘息の発作では全く違いますね。)

squawkは解剖学的理解の応用編

私はリウマチ膠原病内科なので関節リウマチの患者さんを多く診察しているのですが、関節リウマチの患者さんは気管支拡張症の合併が多く、診察の際も良く遭遇します。気管支拡張症で聴取される頻度の高い所見がsquawkです。Squawkとは吸気時のcrackleに続くshort wheezesであり、その機序は下記の図の通りです。
イメージ:squawk解剖学的理解
まず、気管支拡張症は①慢性気管支炎による慢性炎症に伴い、気管支の構造が破壊され拡張します。その結果②圧勾配(拡張した気管支側に引っ張られます)が生まれ、末梢の気道は狭窄(閉塞)しています。③吸気により狭窄している抹消気道が開放されcrackleが聴取され、それに引き続いて④細い気道内に強い乱流が生じるためwheezeが生じます。吸気をしていくとともに胸腔内は陰圧になり、気道も開放されていくためwheezeは消失します。(short wheeze)ただし、気管支拡張症の診断がついていない場合は、この所見から病態を推定しなければいけません。この場合も聴診所見を解剖学的、組織学的に考察し病態が推測できれば鑑別診断としての気管支拡張症も想起できます。

Squawkは気管支拡張症に特異的な所見ではなく、むしろ一般的には肺炎で聴取されることが多いと思います。肺炎により末梢気道に分泌物がつまり末梢気道が閉塞、その後吸気に伴い末梢気道が開放しshort wheezeが生じるという具合です。(ここで生じるラ音は単音性なのであえてcrackle、wheezeと単数形で記載しています。上の分類ではすべて複数形での記載になっていますが、このように単音性の場合は所見も単数形で記載する方がしっくりきますね。正直monophonic wheezesって何だか違和感あります。) 以上のように聴診所見を解剖学的、組織学的に理解すると考察が深くなり、さらには誤診が減るように思います。「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。

<今回のまとめ>

  1. 聴診を行う際は解剖学的な理解をする。
  2. 連続性ラ音の聴診は、音の高いor低い、単音性(monophonic)or多音性(polyphonic)を確認
  3. 聴診所見から診断はつけない、病態を推測する。

今回は肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。
最後にもう一度言いますが、「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。
身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は肺の聴診③副雑音~断続性ラ音~について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 2023年度日本在宅医療連合学会専門医試験のご報告

皆さん暑い日が続いていますね。緩和ケアセンターの川口です。
さて当院は様々な学会認定施設となっております。
日本在宅医療連合学会の認定施設にもなっており、専門医研修プログラムを有しております。
当院の古屋医師がプログラムを終了し本年度の専門医試験に見事合格いたしました!
ポートフォリオ作成、他の医療機関研修など日々の診療の合間の中でとても多忙な1年間だったと思います。
おめでとうございます!
これで専門医は2名となりました。
今後、在宅医療連合学会専門医を取得したい若手医師が当院に入職してくれることを期待しています。
写真ですが欠かさず筋トレをすると我々のような肉体を作ることもできます!
夏を乗り切るのは・・・筋肉です!!

日本在宅医療連合学会 専門医試験合格・写真:川口医師と古屋医師

 肺の聴診①~正常呼吸音~

※本ブログを執筆した古屋医師は2021年4月~2025年3月まで鳳優会に在籍

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。 前回「胸部の打診」についてお話させていただきましたが、今回から「肺の聴診」についてお話しようと思います。これまで触診、打診ときましたがいよいよ聴診です。聴診もこれまで同様に解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学を理解することで、さらに理解が深まります。まず今回は聴診①として正常な呼吸音について考えていきたいと思います。

聴診をするその前に

René-Théophile-Hyacinthe Laennec (1781-1826)
René-Théophile-Hyacinthe Laennec (1781-1826)

聴診を考える上で外せないのはRené-Théophile-Hyacinthe Laennec (1781-1826)です。当時は患者さんの胸に耳をあてて聴く「直接聴診法」が主流で、医師はハンカチ(その上から耳を当てるため)を懐に忍ばせていました。この直接聴診法に対して間接聴診法を考案したのがLaennec医師です。
Laennec医師は自身の論文でこのように記しています。「木片の一端に耳を押し当てると、もう一端をピンで引っかいた音がよく聞こえるということである。そこで私は紙を丸めて筒状にし、一端を心臓のあたりに押し当て、もう一端を私の耳にあてた。すると心臓の鼓動が耳を直接押し当てたときよりはっきり聞こえた。」さらに、これに加えて子供たちが長い中空の棒を使って遊ぶ様子を見たことがあり、それが聴診器の発明に繋がったと言われています。打診のAuenbrugger医師もワインの樽からヒントを得て診察手技を考えたと言われていますが、Laennec医師もすごいです。普段何気なく見ている光景の中に診療のヒントが隠れているかもしれませんね。非常に勉強になります。

世界初の聴診器は1816年に発明されました。これは長さ25cmの木の筒(図右)だったようです。
このように聴診器を用いて行う聴診方法を直接聴診法と対比させ「間接聴診法」としました。
また、Laennec医師は聴診器から聞こえる音を色々分類しました。rales、rhonchi、crepitanceなど命名しそれは現在でも使われています。聴診器は当初はなかなか受け入れられなかったようですが、現在聴診器は診察に不可欠なものになっています。もし聴診器がなかったらと思うとゾッとしますね。Laennec医師はまさに聴診王と言えるでしょう。そのLaennec医師も最期は自らの発明した聴診器で肺結核と診断されこの世を去りました。

最近の聴診器は?

聴診器イメージ
1816年に発明された聴診器は木の筒のようなものでしたが、現在は大きく進化しています。現在の聴診器はチェストピース、チューブ、耳管部の3つに分かれておりチェストピースもベルとダイアフラムに分かれています。音の聞こえ方もステレオタイプのものもあり、かなり進化していますね。私はケンツメディコのラパポート聴診器が好きで昔から愛用しています。ちなみにベル型は全ての周波数を聴くことができますが、ダイアフラムは低音域を遮断するため高音域を聴くのに適しています。呼吸音を聞くのはすべてダイアフラムを使用します。
電子聴診器イメージ
また、最近では電子聴診器というものもあります。写真の機械からパソコンに音を入力し保存できます。それをすることで所見の経時的な評価にも役立つ他、カルテの表現だけでは伝わりにくいことも他の医師へ伝える事ができます。さらには音の波形を作ってくれるので病態の考察がさらに深くでき、患者さんに聞いてもらう事で患者さん自身の病態理解にもつながります。様々な最新の医療機器ができてきており在宅医療の診療の質もどんどん上がっていく事と思います。これからが楽しみです。

胸部の解剖 肺の位置

前回胸部の打診でも確認しましたが、診察手技の前にまず肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ

聴診部位と聴診のポイント

肺のイメージができたら、いよいよ聴診していきます。聴診部位に関しては先ほどのメルクマールを元に前胸部、背部ともに以下の8か所となります。これらの部位を左右比較しながら聴診していきます。
聴診部位と聴診のポイントイメージ図
まず前胸部に関しては頸部から聴診していき、上葉にあたる③、④、中葉・舌区にあたる⑤、⑥、下葉の⑦、⑧の順に比較しながら聴診していきます。この時、頚部に関しては血管雑音や心雑音の放散の音なども同時に聴診していくため左右聴診が必要です。それらが認められなければ、頚部はどちらか一か所で構いません。背部に関しては、上葉から下葉にかけて聴診をしていきますが、肩甲骨の部分は聴診できないのでそれより内側を聴診するのと、特に下肺野に注意しながら聴診していきます。下肺野は間質性肺炎の好発部位なのと、誤嚥性肺炎も起こしやすい部位です。さらには胸水の検出に関しても重要な部分なのでしっかり聴診します。注意しなければいけないのは肺底部の気管支は安静時には虚脱している事が多く、吸気時のfine cracklesを聴取する事があります。ただし、何度か深呼吸してもらうと音は消失してくるので病的なfine cracklesとは分けることができます。特に高齢者はこのような所見を多く認められます。

<聴診するときのポイント>
ここで普段聴診する上で意識しているポイントをお伝えします。

  1. 服の上からあてない
    服の上から聴診をすると服がすれる音が混入してしまい正確な判断ができません。当たり前の事ですが服は患者さんに配慮しながらきちんとめくる、もしくは脱いでもらう方が診察する上では望ましいです。(ただし、実際は服の下から手を入れて聴診することが多いように思います。その際もチューブ等に服が当たらないように注意します。)
  2. ダイヤフラムは跡がつくくらいしっかり押し当てる
    ダイヤフラムはしっかり密着していないと音を拾う事ができません。押し当てたときに丸い跡が残るくらい密着させるのが望ましいです。ただし、痩せている高齢者ではダイヤフラムが肋骨にあたってしまい、皮膚に完全に密着できない場合があります。その際は小児用の聴診器で聴診する、もしくは聴診器と体表の間に点滴(生理食塩水)などを入れて聴診すると聴診できます。点滴を挟むのはあくまで裏技的なものなのであまりお勧めはしていませんが、音は聴取可能です(体と皮膚の間に水分があるためそれを加味した評価になります。どちらかというと心音の聴取の時に使う事が多いです。)。
  3. 深呼吸させない、声掛けをする
    聴診の際には声掛けを行いますが、深呼吸はさせないようにしています。診察に慣れている患者さんであれば深呼吸してくださいという声掛けで上手に呼吸してもらえますが、はじめて診察する患者さんの場合は深呼吸はさせない方が無難です。というのも呼吸音は気道内の乱流により生じています。乱流の強さは流速によるので、深呼吸のようにゆっくりとした流速ではうまく聴診できない事が多いです。筒をくわえて息を吹き込むときにゆっくり吹くと音は小さく弱く聞こえますが、勢いよく吹くとしっかり強い音が聞こえることからも容易に想像できます。このことから聴診する場合は吸気と呼気をこちらで規定する、つまりは「すってー、はいてー」と声掛けをします。もしくは聞こえにくい場合は「勢いよく吸ってもらう」という事が必要です。呼吸音の考え方の詳細は下記に記載します。
  4. 正常からの逸脱」から病態を推測する
    病気とは正常からの逸脱なので、その所見が異常かどうかは正常から逸脱しているかどうかで判断します。つまりは正常呼吸音とは何か?を知っておく必要があります。
    普段聴診する場合には上のようなことを意識して聴診しています。
    次は正常呼吸音について考えていきます。

呼吸音の分類と正常呼吸音

ここからは呼吸音について考えます。病気とは正常からの逸脱であるとお話しましたが、何をもって正常と判断するのでしょうか。呼吸音は下のように分類されます。
呼吸音の分類と正常呼吸音の解説イメージ
そもそも呼吸音はどこから発生しているのかというと、多くは吸気時に葉気管支、区域気管支で発生しています。つまりは、口腔~第7-9分岐のあたりの気管支で発生します。第10分岐以降は呼吸音が発生しないことになっています。呼吸音が発生する部位を乱流領域といいます。(まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで)
吸音はどこから発生しているのか解説図
では正常呼吸音についてです。正常呼吸音はものにより分類が多少ことなりますが、気管呼吸音、気管支呼吸音、肺胞呼吸音に分けられます。それぞれの呼吸音は聴取される部位と音の高さが異なります。
吸音はどこから発生しているのか解説図2

この中で特に気管呼吸音と肺胞呼吸音の違いは最低限意識して聴診する必要があります。気管呼吸音は高い音ですが、肺胞呼吸音は低い音になります。意識して聞いてみると音が全然違うことが分かります。ではこの音の高低の違いは何が原因でしょうか。
呼吸音の伝達において肺胞の役割は外せません。肺胞には高い音を吸収してしまう音響フィルターの機能が備わっています。つまりは気管呼吸音の部位では高い音と低い音が混在していますが、肺胞を通過するときに高い音が吸収され、低い音のみが通過してくるということです。

吸音はどこから発生しているのか解説図3

ここで肺胞が壊れている場合はどうなるでしょう。肺胞呼吸音が聞こえるはずの聴診部位で高い音が聴取されることになります。この現象を肺胞呼吸音の気管呼吸音化と言います。間質性肺炎や肺線維症などで聴取された場合は線維化が強く、かなり進行している状態であると考えられます。もちろん通常の肺炎でも同様の病態が起きているのでこのような所見が得られます。(ただし一時的な所見となります。) このように、「正常からの逸脱」という事を意識すると病態がより深く理解できます。
ここまで気管呼吸音と肺胞呼吸音は聴診部位と音の高低が異なることをお話しましたが、吸気と呼気の聞こえる長さも異なります。気管呼吸音は吸気:呼気=1:1、肺胞呼吸音は吸気:呼気=2-3:1となります。良く閉塞性肺疾患(気管支喘息や肺気腫など)で呼気の延長という所見がありますが、この違いを知っておかないと評価が難しいです。他、間質性肺炎に関しても進行すると肺が膨らまなくなり吸気時間が短くなりますが、この違いの理解が必要です。ちなみに気管支呼吸音は吸気:呼気=1:2程度とされています。

吸音はどこから発生しているのか解説図4
このように正常呼吸音は分類があり、聴診部位により聞こえ方が異なります。 この違いを勉強して、研修医の時にひたすら頚部と背部の呼吸音を聴診して音の違いを耳に叩き込んだのをよく覚えています。あれから10年以上、あっという間に年をとりますね。。

<今回のまとめ>

  1. 胸聴診を行う際も解剖学的な理解をする。
  2. 正常呼吸音を知り、正常からの逸脱を意識した聴診を行う。
  3. 聴診部位により聴取される音の高さ、長さが異なる。
  4. 肺胞は高音を吸収する音響フィルターの役割。

今回は肺の聴診(正常呼吸音)について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。身体診察全般に言えることですが、日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は肺の聴診②副雑音の1回目として連続性ラ音について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 胸部の打診

※本ブログを執筆した古屋医師は2021年4月~2025年3月まで鳳優会に在籍

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。

前回「胸部の触診」についてお話させていただきましたが、今回は「胸部の打診」について考えていこうと思います。胸部の触診は主に心臓の状態を評価するためのものでしたが、打診は肺の状態評価に使うものです。触診と同じで、聴診と比較すると手技も簡単なので必ず診るようにしています。今回胸部の打診の考え方について解剖学的、生理学的な情報を踏まえて考えてみようと思います。

打診とは何か?

イメージ:Josef Leopold Auenbrugger
Josef Leopold Auenbrugger

打診の考案者とされているのはJosef Leopold Auenbrugger (1722-1809) と言われています。彼はワインの商人が半分満たされた樽を叩くのを観察してアイデアを得たのであろうとサパイラ身体診察のアートとサイエンスには書いてあります。これが本当だとすると、それを人体に応用しようとしたのはすさまじいひらめきです。まさに打診王と言っても過言ではないと思います。


打診とは体表面を叩いて音波を発生させ、下にある組織が振動することで、組織や構造物の密度により異なる周波数の音を発生させる手技です。つまり、叩いている部位の下にある臓器の密度(空気が多いのか少ないのか)を知ることで臓器の境界を知るための手技というわけです。

打診には直接打診法と間接打診法があります。直接打診法は直接体表面を叩く方法で、間接打診法は体壁に当てた打診板を介在して叩く方法です。打診板は一般的には自身の左中指を使う方法が主流です。(写真)
直接打診法
<直接打診法>
間接打診法
<間接打診法>
一般的には間接打診法を用いて診察することが多いように思います。関節打診法の診察のポイントは下の通りです。これらのポイントを意識しながら日々打診をしています。
  1. 体位は「座位」:臥位ではあまり好ましくありません。理由は下記に述べます。
  2. 左手の中指を打診板にしてしっかり密着させる。
  3. 一定の力で打診する。
  4. 肘ではなく手首のスナップをきかせて打診する。
  5. 打診したらすぐに離す。
次に打診の方法についてです。名称を覚える必要はありませんが、3種類あります。両側を比較して打診する比較打診法、空気の多いところと少ないところから臓器の位置や異常を推定する局在打診法、聴診と直接打診法の合わせ技である聴性打診法の3種類です。聴性打診法については下で述べます。

なぜ胸部の打診を行うのか?

まず、なぜ胸部の打診を行うのか?という事ですが、その目的は主に「肺の広がりを知るため」です。 打診で推定できる病態に関しては下記の通りです(マクギーのフィジカル診断学)。
所見 感度(%) 特異度 LR+ LR-
比較打診法 濁音
発熱と咳嗽のある患者の肺炎
胸部X線画像での何らかの異常
呼吸器症状のある患者での胸水

4-26
8-15
89

82-99
94-98
81

3.0
3.0
4.8

NS
NS
0.1
局在打診法 横隔膜の可動域<2cm
慢性気道閉塞の検出

13

98

NS

NS
聴性打診法 異常濁音
胸部X線画像での何らかの異常
胸水の検出

16-69
58-96

74-88
85-95

NS
8.3

NS
NS
これを見てみると、肺実質の異常の検出に関しては感度が低く、打診の有用性は乏しいように思います。それに対して胸水をはじめとした胸膜性疾患の検出に関しては感度・特異度ともに比較的高く、診断には有用です。つまり打診は胸膜性疾患の評価に使うことになります。
ここで、心臓の打診は行うのか?という問題があります。それに関しては書籍を確認したり、心臓フィジカルのプロの先生のご意見を伺ったところによると、「心臓診察において打診はあまり有用ではないのでやらない」という事のようです。
所見 感度(%) 特異度 LR+ LR-
座位で濁音界が鎖骨中線より外側へ広がる場合
心胸郭比が0.5以上

97

60

2.4

0.1
臥位で濁音界が胸骨中線から10.5cm以上外側へ広がる場合
心胸郭比が0.5以上

97

61

2.5

0.05
心臓の打診に関しては胸郭変形や肺気腫の有無で左右されてしまうのと、レントゲンとの一致率が低いと言われます。また上の表(マクギーのフィジカル診断学)のような事が言われていますが、心胸郭比の臨床的な意義が明確になっていないため、所見をとってもその有用性が不明であることがその理由の一つです。心臓の評価に関してはPMIの方が情報量は多く、打診がPMIより優先されることはないかと思います。

胸部の解剖 肺の位置

それでは診察手技の前にまず肺・胸郭の解剖を確認します。胸部の打診を行う時も、心臓の診察と同様、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことが重要だと思うので、解剖学的な肺の位置や構造を知ることが重要です。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。また肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。これは外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。他の細かい肺の解剖や換気力学などは呼吸音の会に譲りますが、打診を理解するためにはこれくらいの知識が必要です。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

打診音について知る

打診により得られる音は下の通り分類があります。
打診により得られる音の波形イメージ
鼓音、共鳴音、濁音など分類があり、それぞれ持続時間、周波数など特徴が異なりますが、これを覚える必要はありません。所見の表現を行う都合上名称は覚える必要がありますが、特徴は耳で聞いて覚えるのが一番です。鼓音はガスのたまった腸管や口の中に空気をためて膨らませた頬っぺたなどを叩いた時の音、共鳴音(または清音)は正常な肺を叩いた時の音、濁音は大腿を叩いた時の音です。私はひたすら自分の体を打診して音を耳に叩き込むようにしました。娘の背中を打診して「背中をトントンしないで!」と怒られたのも良い思い出です。
 ここで、打診で生じる打診音の発生機序について述べておきます。打診法が考案された初期の頃から打診音の発生機序には2つの仮説がありました。一つは局在打診仮説、もう一つは胸郭共鳴仮説です。
局在打診仮説・胸郭共鳴仮説イメージ
局在打診仮説は、打診音は打診部位の直下にある軟部組織の力学的特徴のみに依存するという仮説です。つまりは打診部位の直下が肺であれば肺の状態のみに音は依存するという事です。対して胸郭共鳴仮説は、打診音は体壁の振動のしやすさを反映しており、その振動のしやすさは打診の強さ、体壁の状態、その下にある軟部組織などの多数の要素が関係しているという説です。どちらが正しいのかという事に関しては胸郭共鳴仮説を支持する結果が多いようです。胸郭共鳴仮説を支持するものとして、「Skodaの共鳴音」と「Grocco三角」を紹介しておきます。

★Skodaの共鳴音(図左)
胸水の上方の部分を打診すると過共鳴音(鼓音)が聴取されるという所見です。

★Grocco三角(図右)
大量胸水がある反対側の背部に出現する直角三角形の濁音界を認めるという所見です。

Skodaの共鳴音
<Skodaの共鳴音>
Grocco三角イメージ
<Grocco三角>

Skodaの共鳴音に関しては音の原因は分かっていませんが、本来直下の軟部組織は肺であり、胸水により肺はつぶれている可能性もあります。つまりは聴取される打診音は清音もしくは濁音であるべきです。また、Grocco三角に関しては胸水が内側から胸壁を圧迫し胸郭の動きに制限がかかることで反対側に濁音が生じると言われています。これらの事から、打診部位直下の軟部組織だけでは音の発生は説明できず、胸郭共鳴仮説を支持する事象であると言えます。胸郭共鳴仮説が正しいというのが現在の主流の考え方です。
ここから言えるのは、上にも述べましたが打診を行う際は「座位」の体位をとるべきであるという事です。仮に臥位を取った場合、胸郭の動きに制限が出ることで正確な音が判断できないこと言うことになります。在宅では寝たきりの患者さんも多くらっしゃるので、可能な限り支えてもらい座位を取りますが、座位が取れない場合は打診の所見の評価は慎重であるべきです。

打診で肺の動きを感じ取る

では、実際の診察でどのように打診を行い、評価するのかを考えていきます。まず、上にも記載した通り体位は座位とします。次に診察を行う上での体表面のメルクマールを確認します。確認するのは肩甲骨下部と腸骨稜頂上部です。肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当します。その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当し、そこが肺底部です。(解剖学的にTh12まで肺が存在していることを上で確認しました。) 横隔膜に腎臓の上極がかぶっているので、このあたりがCVA叩打痛の部位という事も合わせて覚えておくとよいと思います。
肩甲骨下部・腸骨稜頂上部イメージ
解剖学的なメルクマールを確認し、肺の場所がイメージできたら、いよいよ打診を行っていきます。打診は肺尖部から肺底部に向けて細かい間隔、一定のリズムで打診をしていきます。ここで、打診の間隔をあけてしまうと正確な局在診断ができなくなるので、イメージとしては1横指ずつずらしながら打診をしていく感じです。
細かく打診をしていき、共鳴音から濁音に音が変わるところがあります。そこが肺底部と判断します。肺底部の場所が先ほど確認したメルクマールであるTh12の付近にあれば肺のふくらみに大きな問題はないと判断します(右は左と比較して1-2cm上になります)。次に肺がしっかりふくらみ、しっかりしぼむのか、横隔膜の動きが問題ないのかを考えていきます。 上の通りまず安静呼吸時におおよその肺底部を同定したら、次に患者さんに息を吐ききってもらい再度共鳴音から濁音へ変わるところを見つけます。音が変化した部位に左手の中指を固定し、次に深吸気してもらいます。深吸気し、息を止めた状態で中指は固定し打診板を人差し指として、徐々に中指と人差し指の間隔を開きながら人差し指を打診していき、音が変化したところで人差し指を固定します。
打診イメージ
イメージ:徐々に中指と人差し指の間隔を開きながら人差し指を打診していき、音が変化したところで人差し指を固定
この時の人差し指と中指の間の距離が横隔膜の動いた距離となり、正常であれば大体3-6cm程度あります。ここの距離が短くなる場合は、肺が膨らみすぎてしぼまない状態(肺気腫など)や固くなっている状態(間質性肺炎など)を考えます。しかし、重要なのはこの後に待っている聴診に備え、打診から肺の状態を想像するという事です。つまりは打診をする前に基礎疾患が何なのか、喫煙歴はあるのかなど確認する必要がありますし、聴診した後に再度打診に立ち返る事も必要です。打診は他の臨床情報や身体所見との合わせ技で判断します。さらにはワンポイントではなく、経過を追う事も忘れてはいけません。特に間質性肺炎の治療経過では呼吸音も重要ですが、打診で肺の拡張が改善しているというのも重要な所見です。

聴性打診法を活用する!

最後に聴性打診法について少しお話しておきます。普段間接打診法を主に使って診察していますが、聴性打診法も併用して評価するようにしています。本来どちらかだけで良いと思いますが、二つの所見を組み合わせることにより診察の精度を高めようという試みです。聴性打診法は直接打診法と聴診の合わせ技です。 まず、聴診器を先ほどのメルクマールであるTh12の部位よりさらに下方(最下部の肋骨よりも3cm程度下を目安)に当て、直接打診法で肺尖部から細かく優しく肺底部に向けて打診していきます。打診音は聴診器より聴取されますが、肺底部を越えると打診音が急に高くなるのですぐに分かります。
聴性打診法イメージ
他には変法として背部に聴診器を当てながら、胸骨を直接打診する方法もあります。この場合は聴診器を上からずらしながら胸骨上を直接打診することで音の変化を確認します。胸水があれば音の伝導が悪くなります。もちろん比較打診法で打診して、左右を比べて判断する手技です。
ちなみに聴性打診法による異常濁音は比較打診法と比較して陽性尤度比が高いようです。このことからも、間接打診法と聴性打診法の併用で胸膜性疾患の検出率が上がるように思います。
診察イメージ
所見 感度(%) 特異度 LR+ LR-
比較打診法 濁音
発熱と咳嗽のある患者の肺炎
胸部X線画像での何らかの異常
呼吸器症状のある患者での胸水上

4-26
8-15
89

82-99
94-98
81

3.0
3.0
4.8

NS
NS
0.1
聴性打診法 異常濁音
胸部X線画像での何らかの異常
胸水の検出

16-69
58-96

74-88
85-95

NS
8.3

NS
NS
<今回のまとめ>
  1.  胸部の打診を行う際は肺の解剖を体表から予測する。
  2. 打診を行う時は可能な限り「座位」をとる。
  3.  打診は一定の力で、間隔は細かく、打診部位直下の臓器の位置を意識して行う。
  4. 聴性打診法も有効。併用しながら診察の精度を高める。
  5. 打診もワンポイントではなく経過を追うことと他の所見と組み合わせることが重要。
今回は胸部の打診について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、視診や触診だけでなく、打診も重要であり、さらには聴診よりも評価が簡単です。得られる情報も多いので日々訓練をしながらマスターしていきたいですね。身体診察はやればやるほど奥が深いです。。

次回は肺の聴診について考えてみようと思います。

<参考文献>
  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 関節リウマチ患者さんの在宅診療を考える会に参加してきました!

リウマチ・膠原病センターの古屋です。

2023年7月12日に八王子で「関節リウマチ患者さんの在宅診療を考える会」が開催され、古屋が講演してきました。
八王子は品川区とは多少の地域差もありますが、在宅医療で困っていることは同じであると改めて認識させられました。品川区ではICTを用いた多職種連携はまだまだこれからですが、八王子では数年前から「まごころネット」という情報共有のツールを用いて在宅医療の連携を図っておられました。問題点もあるとの事でしたが、これから絶対必要なシステムだと思うので、とても勉強になりました。

今回の勉強会で関節リウマチの在宅診療というテーマでお話しさせていただきましたが、この会を通していろいろな先生方と意見交換ができ、とても有意義な会に参加することができました。今後もこのような会には積極的に参加していこうと思います。

関節リウマチ患者さんの在宅診療を考える会・プログラム

 第5回日本在宅医療連合学会大会に参加してきました!(診療アシスタント編)

診療アシスタントの野田です。

当院の大中医師、古屋医師と共に学会に参加してきました。
学会への参加は初めてでしたが、在宅医療が現在抱えている問題点など、
たくさんの気づきが得られる貴重な時間となりました。
また、診療アシスタントとして発表もさせていただきました。
職種を問わず、学会への参加などを後押ししてくれる職場環境に感謝です。

第5回日本在宅医療連合学会大会

 第1回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました

2023年6月22日に第1回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました。

昨今のコロナ禍に伴い、多職種間の交流が少なくなり、各事業所間での顔の見える関係作りが難しい情勢が続きました。その中で、皆様も各事業所間の密な連携の重要性に気づかされる場面に多々遭遇してきました。超高齢化社会を迎える日本において、生産年齢人口が減少する中、我々医療者は一丸となり総力戦で立ち向かう必要があります。
これから在宅医療の需要が増してくる中で、在宅医療ネットワーク構築は必須の課題かと思われます。これまで、「密」を避ける目的から勉強会の開催はできていませんでしたが、連携の強化を行うにあたり、まず顔の見える関係作りを行う必要があると考え、勉強会という形を用いて関係作り基盤構築のため「城南地区在宅医療ネットワーク」を設立しました。

城南地区ネット

今回は関節リウマチをテーマにグループワークを交えた勉強会を行いました。炎症=機能障害という考え方から関節の機能障害の理解、関節リウマチの患者さんの困りごとまでみんなで考えました。みなさん積極的に討議に参加していただき、とても有意義な会ができたかと思います。

第1回城南地区在宅医療ネットワーク①
第1回城南地区在宅医療ネットワーク②
第1回城南地区在宅医療ネットワーク③
第1回城南地区在宅医療ネットワーク④
第1回城南地区在宅医療ネットワーク⑤

今回の会は「はじまり」であり、これから真の在宅医療ネットワークを作っていく必要があります。2040年問題という大きな壁が立ちはだかる状況ですが、城南地区の在宅医療へ関わるスタッフの方々の熱い思いがあればきっと良いネットワークができ、総力戦で乗り切ることができると確信しました。

今回集まっていただいた方々だけでなく、たくさんの人とのご縁を大切にして全国へ発信できる在宅医療ネットワークを目指していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

城南地区在宅医療ネットワーク 責任者 
教育委員長 リウマチ・膠原病センター 古屋秀和