肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。
前回「正常呼吸音」についてお話させていただきましたが、今回から副雑音についてお話しようと思います。副雑音1回目は連続性ラ音です。連続性ラ音を理解するためには解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学の知識が必要です。ここをしっかり理解すると病態の考察が深くなります。今回の目標は「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」です。

胸部の解剖 肺の位置

前回も解剖の確認をしましたが、重要な事なので再度肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。
解剖を知ることは聴診において重要な事です。例えば中葉の気管支拡張症、下葉の間質背肺炎、気道内異物など好発部位がある疾患と部位の特定が必要な病態に関しては聴診上最強点の同定する必要があります。対して細菌性肺炎の細かい部位に関しては同定する必要はなく(かなり難しいとは思いますが仮に同定できても治療はほとんど変わりません。右か左かだけで十分です。)、むしろ緊急性の評価を行い早急に対応する事の方がもっと重要です。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ
肺・気管支の細かい解剖や組織学的な特徴は病態を考えながら適宜説明していきます。

副雑音の分類

今回は連続性ラ音についてお話していきますが、そもそもラ音とは何でしょうか。肺胞呼吸音由来の副雑音の事をドイツ語でRasselgeräuschと表記します。それを語源として、昔の日本では副雑音の事をラッセル音と言っていました。それを略してラ音です。背景を知らないと意味が分からない言葉がたくさんあります。日本人は略語が好きですね。
まずは副雑音の分類から見ていきます。
イメージ:副雑音の分類
副雑音は連続性ラ音、断続性ラ音に分けられます。今回は連続性ラ音についてお話します。 連続性ラ音とはその名の通り連続している雑音の事です。連続性ラ音はさらにstridor、squawk、wheezes、rhonchiに分類されます。実は、国際肺音学会(ILSA:the International Lung Sounds Association)でも呼吸音に関しては一定のコンセンサスは定まっておらず、日本人医師である三上医師の提唱した案が一般的に使用されており、いまだに1987年の三上医師の論文が参考文献に登場します。このことから、肺音に関してはものにより分類が多少異なりますが、今回はアメリカ胸部学会(American Thoracic Society : ATS)の推奨を参考にして、上の表のような分類で進めていきます。

連続性ラ音の発生機序

連続性ラ音とはATSの提案では250ms以上持続する雑音としていますが、「ある程度長く続く高い音もしくは低い音」程度の理解で十分です。その発生機序ですが、気道の一部に狭窄が生じると、その部位で気流速度が上がりますが、気流と気道壁の相互作用(振動)により音が発生すると言われています。要するに口笛と同じです。口をすぼめて息を吐きだすとピーと音がしますが、気管支も狭窄するとピーと音がするわけです。音の発生源は呼吸音と同じく乱流領域です。
イメージ:連続性ラ音の発生機序
基本的には胸腔内が陽圧になるときに気管支は押しつぶされて狭窄が強くなるので、聴取されるのは呼気時です。しかし、狭窄が強くなり、より重症な病態になれば吸気時にも聴取されます。それに対して、Stridorは吸気時のみに聴取されるものですが、その考え方は下記の通りです。

Stridorとは?

連続性ラ音の分類をもう一度見てみましょう。これらの所見を大きく二つに分けるとしたら下の通りになります。
イメージ:連続性ラ音の分類

このように、大きく分けるとstridorとそれ以外になります。これは、病変部位が胸腔内か胸腔外かで分けています。病変が胸腔外であればstridor、他はすべて胸腔内の病態で得られる所見です。
Stridorは声帯よりも上部の気道の狭窄が生じた際に聴取される音で、音の聞こえ方としてはwheezesと同様です。wheezesとの違いは①吸気時に聴取②頚部で最強という事です。この違い、特に吸気時に聴取される理由は下の図の通りです。まず吸気時には横隔膜が収縮する事で胸腔内が陰圧になります。それに伴い胸腔内に空気が引き込まれ、引っ張られるような形で胸腔外の気道はへこむ訳です。

イメージ:Stridor
Stridorが聴取されたら病変は喉のあたりになるので、鑑別は急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫、気道異物、小児ならクループなどです。危ない病態も隠れているので評価は慎重に行う必要があります。ただし、注意点としては喘息のwheezesはじめ他の疾患でも吸気時の連続性ラ音は聴取される事があるため最強点がどこなのかというのもしっかり評価が必要です。

rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測する!

ここからはrhonchiとwheezesの話をしていきますが、それに伴いまず気管・気管支の解剖、組織学的な特徴を確認します。気管や気管支は平滑筋という筋肉でできている管腔臓器であるため、広がったり縮んだりします。しかし、過度に広がったり縮んだりすると問題が生じるので、それを制御する機能があります。その一つが気管軟骨です。気道の解剖を見てみると中枢気道(気管)とそれ以降の気管支の構造が違うことに気づきます。気管軟骨は気管ではC字型で気管をしっかり取り巻いていますが、主気管支から葉気管支以降になると軟骨はまばらになります。このまばらな軟骨の事を軟骨片と言います。軟骨は終末細気管支より抹消ではなくなり、肺胞管、肺胞となります。なぜこのような構造になっているのかというと、気管はつぶれたら死んでしまうのでしっかり固める、肺へ向かう気管支は空気を効率よく肺胞まで送り出す必要があるためある程度拡張するようになっています。終末細気管支以降はガス交換を行うところなので、軟骨があると逆に効率が悪くなるので軟骨はありません。気道は中枢の方は固くできていますが、抹消にいけばいくほど柔らかくなっているという事です。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測
また、気管支や肺は拡張したり縮んだりした後に元の形に戻るようになっています。気管支や肺は形状記憶できるようになっており、それをさせているのが弾性繊維です。気管や気管支は弾性繊維を巻き付けながら走行しており、過度な形の変化を防いでいます。また、交感神経と副交感神経が気管支に並走しており、その調節に関与しています。緻密に計算された非常によくできた臓器です。

その気管支が狭窄することで生じる音がwheezesやrhonchiです。音の特徴としては、wheezesは高い音でrhonchiは低い音になります。その音の違いは狭窄している気管支の太さによります。これは口笛を想像すると理解がしやすいと思います。例えば、高い音を口笛で出したいときは口をとがらせますが、低い音を出したいときは少し口を開きます。同じように細い気管支が狭窄すると高い音(wheezes)が、太い気管支が狭窄すると低い音(rhonchi)が聴取されるといった具合です。
イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測・肺胞

Stridorの時は吸気時に狭窄が強くなるため、聴取されるのは吸気時でしたが、wheezesとrhonchiは吸気呼気ともに聴取されます。胸腔内の気管支は胸腔内が陽圧になると狭窄が強くなるため呼気時に聴取する(下図)というのが原則ですが、病態によっては吸気時にも聴取されます。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測

例えば気管支喘息の発作が起きた時を考えます。先ほど確認した通り気管支は末梢にいけばいくほど柔らかくなるので、末梢の方から狭窄していきます。発作のごく初期の非常に軽いフェーズでは狭窄も軽度であるため通常の呼吸では連続性ラ音は聴取されません。このフェーズで発作を捕まえるためには強制呼出をさせ胸腔内を強制的に強い陽圧にすることで誘発されるwheezesを聴取し、診断します。さらに狭窄が強くなれば平静呼気時に聴取されるようになり、いずれは吸気時にも聴取されます。吸気時に聴取される病態としては、胸腔内が陰圧になり、胸腔内の気管支が拡張する訳ですが、それでも狭窄が解除されないほど進行している状態ということになります。また、発作が重症であればあるほど狭窄している気管支も、より太い気管支まで障害されるためwheezesとrhonchiが混在したような音が聴取されるようになります。最重症の状態になるとラ音が聴取されなくなります。(連続性ラ音が発生するためには十分な空気の流速が必要であり、狭窄が非常に強い場合は十分な流速が確保できないのでラ音が消失します。)フェーズにより聴診所見は変化しますが、それを重症度として分類したものがJónsson分類 です。これを用いて「〇度のwheezesを聴取」のように記載します。

グラフイメージ:Jónsson分類

さらにwheezesを聴取する疾患は気管支喘息だけではありません。細い気管支が狭窄すれば音が発生するため、細い気管支が狭窄する病態を考えます。代表的な疾患が心不全・肺水腫です。左室ないしは左房圧の上昇により、肺毛細血管圧が上昇。血症浸透圧を越えて肺毛細血管圧が上昇すると肺の間質に水が溜まります。その水が末梢気道を圧迫することで気管支狭窄が起き、wheezesが聴取されます。(下図)

イメージ:心不全・肺水腫
Wheezes=気管支喘息と決めつけてしまうと心不全であったときに痛い目を見ます。発作と考えステロイド+β刺激薬+場合によりアドレナリン。。。すべて心不全を悪化させる治療ですから、判断は慎重に行う必要があります。心不全を見抜くには他の視診、触診、心音に加え既往歴、内服歴などを考慮し総合的に判断することが必要です。
次にrhonchiについて見ていきます。rhonchiを呈する疾患の代表格は肺気腫です。肺気腫は肺胞構造が破壊され肺が過膨張の状態になる疾患であると学生の時は教わりました。また、肺気腫は慢性閉塞性肺疾患と言われており、学生の時は過膨張するのに閉塞ってどういう事??って思ったものです。それを理解するため、肺気腫の病態を下の図で簡略化して説明しておきます。
イメージ:肺気腫の病態
原因はみなさんご存じタバコです。有害なタバコの粒子が肺胞へ到達すると①肺胞マクロファージに貪食され炎症性メディエーターが放出されます。それに伴い②好中球が遊走し③タンパク分解酵素を放出します。④それにより破壊されるのがエラスチンと呼ばれる弾性繊維です。エラスチンは先ほど解剖の確認でも登場した形状記憶するために必須の構造なので、そのエラスチンが破壊されると肺胞は通常の構造を保つことができず膨れ上がり壊れます。ただし、我々の体にはタンパク分解酵素を抑制してくれるα1アンチトリプシンという防御機構がありエラスチンが破壊されるのを防いでくれるので肺気腫にはならないようになっています。しかし、喫煙自体がα1アンチトリプシンの活性を低下させてしまうため、日常的に喫煙している方は肺が壊れやすくなってしまいます。タバコは百害あって一利なしです。
イメージ:肺気腫の病態

肺が過膨張になると、①肺胞が絶えず外側に膨れ上がろうとするので、②その分空気が気管支側から引き込まれます。それに伴い③比較的太い気管支が引っ張られて狭窄するためrhonchiが聴取されるという事です。さらには慢性の気道炎症と気管支壁の肥厚、分泌物の増加などもrhonchiの原因の一助となっています。
ちなみに気道の分泌物(痰)のみでもrhonchiを聴取しますが、咳をしてもらうと音が変化する(うまくいけば消える)事で分かります。また痰の場合は単音性(monophonic)(下でお話します)になる事が多く、閉塞性肺疾患の病態とは分けることが可能です。

単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)を意識する

連続性ラ音を聴診、評価する際に単音性(monophonic)、多音性(polyphonic)という考え方が重要です。ある一部で聞こえる単一の音を単音性(monophonic)と言い「ピー」という感じで聞こえます。そして、どこで聞いても聞こえる、たくさんの音が一斉に始まり一斉に終わる(厳密には少しずれますが)「ビュービュー」みたいな音が多音性(polyphonic)と言います。これは擬音語で表現するのはかなり無理があるのでyoutubeや教科書(川城丈夫 先生の「CDによる聴診トレーニング 呼吸音編 改訂第2版」 、皿谷健先生の「まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで」がおすすめです!)を活用して実際に聞いてみるのが良いと思います。 単音性と多音性を区別するのはなぜかというと、聞こえ方により鑑別診断が全然変わってくるからです。たとえば単音性のwheezesを聴取した場合に気管支喘息の疑いと言えるでしょうか。単音性というのはある一部の気管支が狭窄していることを示唆するので、気管支喘息のようにびまん性に狭窄が生じる疾患の可能性は低いでしょう。どちらかというと、気道内異物や喀痰、肺腫瘍による圧迫・狭窄などが鑑別に上がると思います。(ちなみに吸気・呼気のどちらでも一定の単音性のラ音が聴取される場合は、より肺腫瘍の存在を疑うことになります。)rhonchiも同様です。
イメージ:単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)

ここまで連続性ラ音について見てきましたが、聴診して診断名を決めるというよりは、聴診所見を考察して病態を考える事が重要です。診断を焦るのは誤診の元になります。聴診所見から音の高いor低い、単音性or多音性を確認してどこに狭窄がどの程度の範囲にあるのかを推測し、その病態を考え、自分が考えている診断と矛盾がないかを照らし合わせるというステップを毎回踏む必要があります。病態により対応は全く異なります。(気道内異物と気管支喘息の発作では全く違いますね。)

squawkは解剖学的理解の応用編

私はリウマチ膠原病内科なので関節リウマチの患者さんを多く診察しているのですが、関節リウマチの患者さんは気管支拡張症の合併が多く、診察の際も良く遭遇します。気管支拡張症で聴取される頻度の高い所見がsquawkです。Squawkとは吸気時のcrackleに続くshort wheezesであり、その機序は下記の図の通りです。
イメージ:squawk解剖学的理解
まず、気管支拡張症は①慢性気管支炎による慢性炎症に伴い、気管支の構造が破壊され拡張します。その結果②圧勾配(拡張した気管支側に引っ張られます)が生まれ、末梢の気道は狭窄(閉塞)しています。③吸気により狭窄している抹消気道が開放されcrackleが聴取され、それに引き続いて④細い気道内に強い乱流が生じるためwheezeが生じます。吸気をしていくとともに胸腔内は陰圧になり、気道も開放されていくためwheezeは消失します。(short wheeze)ただし、気管支拡張症の診断がついていない場合は、この所見から病態を推定しなければいけません。この場合も聴診所見を解剖学的、組織学的に考察し病態が推測できれば鑑別診断としての気管支拡張症も想起できます。

Squawkは気管支拡張症に特異的な所見ではなく、むしろ一般的には肺炎で聴取されることが多いと思います。肺炎により末梢気道に分泌物がつまり末梢気道が閉塞、その後吸気に伴い末梢気道が開放しshort wheezeが生じるという具合です。(ここで生じるラ音は単音性なのであえてcrackle、wheezeと単数形で記載しています。上の分類ではすべて複数形での記載になっていますが、このように単音性の場合は所見も単数形で記載する方がしっくりきますね。正直monophonic wheezesって何だか違和感あります。) 以上のように聴診所見を解剖学的、組織学的に理解すると考察が深くなり、さらには誤診が減るように思います。「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。

<今回のまとめ>

  1. 聴診を行う際は解剖学的な理解をする。
  2. 連続性ラ音の聴診は、音の高いor低い、単音性(monophonic)or多音性(polyphonic)を確認
  3. 聴診所見から診断はつけない、病態を推測する。

今回は肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。
最後にもう一度言いますが、「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。
身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は肺の聴診③副雑音~断続性ラ音~について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック