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 城北地域医療 TSUNAGU Project vol.1 開催レポート

こんにちは!2024年1月25日に「城北地域医療TSUNAGU PROJECT vol.1」が開催されました。あすかホームケアクリニックを会場として、総勢15名もの看護師さんや薬剤師さんにお越しいただきました!いずれも普段当院がお世話になっている頼りになる方々ばかりでした。

今回は緩和ケアの薬剤をテーマに当院川口医師による熱い講演が行われました。主に疼痛緩和のための薬剤について、それぞれの特性や選択基準、具体的な使用方法などについての講演でした。一口に疼痛緩和と言っても患者さんの状態やお気持ちに合わせて様々な薬剤の使い方があり、その使用方法は千差万別で、正に「オーダーメイド医療」という在宅医療の真骨頂といった内容だったのではないかと思います。最後は記念写真撮影をして無事終了となりました。
参加者の皆様も熱心にご清聴頂き、とても有意義な時間でした!今回ご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました!

あすかホームケアクリニックでは日頃から「顔の見える医療」をテーマに、患者さんを中心とした地域の皆様との密接な連携を大切にして診療に当たっています。
今後も「城北地域医療TSUNAGU PROJECT」は定期的に開催させて頂きたいと思っております。今後ともあすかホームケアクリニックをどうぞよろしくお願い致します。

城北地域医療TSUNAGU PROJECT vol.1・イメージ
城北地域医療TSUNAGU PROJECT vol.1・イメージ
城北地域医療TSUNAGU PROJECT vol.1・イメージ

 「今日の治療指針 2024年版」に鳳優会・藤元理事長が執筆しました

医学書院から出版されている「今日の治療指針 2024年版」に、鳳優会・藤元理事長が分担執筆しました。
「在宅医療」神経難病患者のケアの項目になります。

※【今日の治療指針 2024年版】とは
1959年の初版から長きにわたり臨床現場で使われてきた信頼と実績の最新治療年鑑


詳しくは「医学書院」サイトも是非チェックください

今日の治療指針 2024年版[デスク判]
私はこう治療している



 枝つき蜜柑

蜜柑がスーパーの果物コーナーに陳列され始めると、冬が来たと感じます。

様々なエリアのお家を訪問していますが、都内でもお庭に果物の木を育てている家が意外と多い印象。
当院の訪問診療エリアは広範囲ですが都内の主要駅付近も訪問しております。
桜の名所、写真映えする飲食街エリア、オフィスビルが立ち並ぶエリアなどなど。
一見、植物は街路樹もしくはプランターで育てるのは草花かなと思うのですが、一軒家のお庭に立派な木を育てているご自宅を見かけることが多々あります。

今回、訪問診療でお伺いしている患者様のお一人から立派な枝つき蜜柑を頂きました。
酷暑だったため、秋から実り始めた蜜柑は水分不足で「果実が割れてしまう」現象が起こっていました。
1年を通して先生と一緒に訪問する中で、季節のお花のこと、薔薇を綺麗に育てて、季節のお野菜をヘルパーさんと一緒に買い物するのを楽しんでいる患者様のお話を沢山聞いていたため、大事に育てている果実の木が元気に育ってくれたらと祈っていました。

枝付きの立派な蜜柑を頂いた時は、育つ過程を知っていたためとても嬉しかったです!

密柑・イメージ

枝付きの蜜柑を食べるのは初めて。帰宅中に枝が取れたら鮮度が落ちるかな!?などドキドキしていたのですが、枝と蜜柑はしっかり繋がっていました。
スーパーで買う蜜柑はヘタが容易に取れてしまいますが、枝が付いているとヘタ付近の皮が厚くなっているな~と観察。
とっても甘くて、種もなく、美味しくいただきました!ありがとうございます。

2枚目の写真はデイサービス先で作ったリース。
色使いや装飾がとても素敵です。

デイサービス先で作ったリース・イメージ

 城北地域医療 TSUNAGU Project vol.1 のお知らせ

こんにちは!
あすかホームケアクリニックでは日頃から顔の見える地域連携を大切にして診療に当たっています。
今回、地域全体を一つのチームとして捉え、地域連携をより円滑に行うことを目的として定期的な勉強会を企画させて頂きました。題して「城北地域医療 TSUNAGU Project」です!!

記念すべき第一回目は「緩和医療」をテーマに、近年の再診の薬剤についての勉強会を開催させて頂く予定です。講師は当院の緩和医師の川口医師になります。
皆様のご参加お待ちしております!!

詳細は以下の通りです!

あすかホームケアクリニック
院長 黒木卓馬

●訪問診療対応エリア●
北区・板橋区・豊島区全域
足立区・文京区・荒川区・練馬区・新宿区・川口市、戸田市の一部地域
お気軽にお問合せ下さい
TEL:03-5963-5980
FAX:03-5963-5981
Mail: asuka@homecareclinic.or.jp

城北地域医療 TSUNAGU Project vol.1 のお知らせ・ポスターイメージ

 「認知症」について

こんにちは!あすかホームケアクリニックの黒木です。

今日は「認知症」についてです。脳神経内科を専門にしていることもあり、当院には日々数多くの認知症についての相談が寄せられます。

現在、65歳以上の約16%が認知症であると推計されており、80歳代の後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であることが明らかにされております。その有病率は年齢とともに急峻に高まることも知られており、「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、2025年には約675万人(有病率18.5%)と5.4人に1人程度が認知症になると予測されており、深刻な社会問題となっています。

在宅医療の現場でも認知症の患者様はたくさんいらっしゃり、在宅医療になる患者さんの半数は認知症が原因とも言われています。
中にはご家族もあまり気にせず、「年相応に」といって未加療で過ごされている方もいますが、認知症の進行によって急激にADLが低下したり、せん妄が強くなったりしてご家族が困ってしまうケースもあります。

認知症とは、「何らかの脳の病的変化によって、認知機能が障害され、それによって日々の生活に支障があらわれた状態」と定義されており、「加齢による物忘れ」と「認知症」は区別できます。
例えば、朝ご飯のメニューの一部を忘れてしまうなどは物忘れの範疇ですが、食べた事自体を忘れてしまうのは認知症の可能性が高いです。また、もの忘れに対する自覚症状がない場合も認知症である可能性が高く、ご家族に指摘されて相談されるケースが多いです。

認知症の原因の約68%はアルツハイマー型認知症と言われており、20%はレビー小体型認知症、その他脳血管性認知症などが続きます。特に、アルツハイマー型認知症では、認知症を発症する15年以上前から脳内での変化が始まっていると言われており、徐々に進行してゆくことから早期発見、治療介入がとても大切です。
幻覚症状や暴力的な言動などで介護者やご家族を悩ませてしまうことも多く、それが原因で自宅で過ごすことを諦めてしまうケースもあります。

住み慣れたご自宅で、大切なご家族と長く安心して過ごしてゆくために、気になることがあればすぐに医療機関などに相談するようにしましょう。

P・S 私は趣味でコントラバスの演奏をしています。休日に気ままに練習したり、時々ジャズバーに出演したりしています。愛器は作者不明のドイツの楽器ですが、150年以上前に制作されたもので、深みのある乾いた木の音がとても気に入っています。

「認知症」について・投稿の挿入イメージ

人間も楽器も、ちゃんとメンテナンスをすれば永く健康に過ごせると思わせてくれますね!

あすかホームケアクリニック
院長 黒木卓馬

●訪問診療対応エリア●
北区・板橋区・豊島区全域
足立区・文京区・荒川区・練馬区・新宿区・川口市、戸田市の一部地域
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FAX:03-5963-5981
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 肺の聴診③副雑音~断続性ラ音~

※本ブログを執筆した古屋医師は2021年4月~2025年3月まで鳳優会に在籍

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。 前回「連続性ラ音」についてお話させていただきましたが、今回は副雑音②として断続性ラ音についてお話しようと思います。断続性ラ音を理解するためには解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学の知識を利用することはもちろん、雑音の聴取されるphaseにより病態を推定する事が必要です。今回の目標は「聴診所見から病態を推測し、重症度や治療経過を判断する!」です。

胸部の解剖 肺の位置

前回も解剖の確認をしましたが、重要な事なので再度肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ

副雑音の分類

前回の復習ですが、副雑音は連続性ラ音、断続性ラ音に分けられます。今回は断続性ラ音についてお話します。断続性ラ音とはその名の通り断続的に細切れになっている雑音の事です。断続性ラ音はさらにfine cracklesとcoarse cracklesに分けられます。連続性ラ音の時は単音性と多音性に分けられましたが、断続性ラ音に関しては単音という事はありえないので、複数形のみです。crackleではなくcracklesと記載する点に注意です。

副雑音の分類​
fine crackles、coarse cracklesに関しては下記でお話します。 体位により変化するcracklesもあります。例えば有名なところだと、心筋梗塞後の体位性cracklesです。これは仰臥位で出現し座位で消失する所見ですが、これは座位、仰臥位、仰臥位で下肢を30度挙上という3つの体位で聴診するもので、それぞれ後腋窩線近傍の胸壁下部を聴診します。聴診はそれぞれの体位になって3分経過した後のみとマクギーのフィジカル診断学には書いてありますが、正直あまり臨床的に使える所見ではないのでやっている人は見た事ありませんし、自分もやりません。。

fine cracklesを考察する

fine cracklesを考察する・イメージ

fine cracklesは「チリチリ」「バリバリ」と言った高調な音で、1回の呼吸で細かく、たくさん聴取されます。良く言われるのは「耳の近くで髪の毛をこすり合わせた音」、「マジックテープをはがした時の音」と表現されます。その音の発生原理は、直前の呼気で虚脱した気道の遠位部が吸気に伴い突然開放(圧較差の消失)することで生じると言われており、肺収縮する病態で聴取されます。つまり基本的には吸気時に聴取されます。また、その音の高さは気道の口径により変化し、気道の口径が小さいほど高調の音が、大きいほど低調の音が発生し、これは連続性ラ音の時と同様ですね。

fine cracklesを聴取する代表的な疾患は間質性肺炎・肺線維症です。間質性肺炎は図のように肺胞周囲の間質という場所が炎症や線維化をすることにより肺収縮する疾患です。そのため、末梢気道は虚脱しており、吸気時に虚脱した気道が開放されるために音が発生します。 間質性肺炎は特発性でも二次性でも肺底部に病変が好発するため、打診で肺底部を同定し、そこを狙って聴診します。 fine cracklesを聴取するときは下記のポイントを意識するとよいと思います。
  1. 呼吸相を意識する。
  2. 吸気時間を意識する。
  3. 肺胞呼吸音の気管呼吸音化を意識する。

①呼吸相を意識する。

間質性肺炎におけるfine cracklesは教科書的には吸気中期から終末に聴取されると言われますが、虚脱しているのは末梢気道であるため、空気が入り切ったところで開放音がするのはよく理解できます。ただし、実際は病態(病期や重症度)により聴取される呼吸相は変化してきます。胸部のCTを見てみると分かる通り、間質性肺炎や肺線維症は肺の末梢から起きてきます(図は肺線維症のCTです。)。進行すると徐々に中枢側へ病変の範囲が拡大してきます。それに伴い、初期は吸気中期から終末にfine cracklesを聴取しますが、進行すると全吸気で聴取するようになります。また、炎症がメインの病態ではcracklesの聞こえ方も「チリチリ」した音になりますが、線維化が強くなるとはっきりとした「バチバチ」した音になってきます。
呼吸相について・イメージ

②吸気時間を意識する。

正常呼吸音の時にやりましたが、呼吸音は聴診部位により吸気と呼気の長さが異なります。側胸部から背部で聴取できる呼吸音は肺胞呼吸音であり、肺胞呼吸音は吸気の方が長く聞こえます。肺の線維化が進行し肺収縮を来すと、肺が膨らまなくなるためそれを反映して吸気時間が短縮します。それは肺胞呼吸音を聴診した際に明らかです。吸気の短縮がある場合は線維化が強い、ある程度進行した間質性肺炎もしくは肺線維症と判断できます。
吸気時間を意識する・イメージ

③肺胞呼吸音の気管呼吸音化を意識する。

肺胞には高い音を吸収してしまう音響フィルターの機能が備わっているという事を正常呼吸音の時にお話ししました。(下図)
肺胞呼吸音の気管呼吸音化を意識する・参考イメージ

肺胞が壊れている場合、肺胞呼吸音が聞こえるはずの聴診部位で高い音が聴取されるという現象が起きます。この現象を肺胞呼吸音の気管呼吸音化と言います。間質性肺炎や肺線維症などで聴取された場合は線維化が強く、かなり進行している状態であると考えられます。
さらに肺が収縮している場合は横隔膜の位置が挙上することも確認しておくと良いと思います。

これらのポイントを意識しながら聴診することで、患者さんの肺の状態、呼吸状態がある程度把握でき、予後の予測にもつながります。

間質性肺炎があった時に肺以外で診るべきところ

肺病変のある患者さんを診察する時には肺以外に呼吸補助筋ばち指の有無も合わせて診ておくと良いと思います。

1)呼吸補助筋の観察

私たちの肺が膨張・収縮をするためには①横隔膜の下降・上昇運動による胸腔の上下径の増減②肋骨の上下運動による胸腔の前後系の増減という二つの方法を利用しています。正常な安静呼吸はほぼ①の方法で行われますが、呼吸補助筋を使用して②のように胸郭を広げることもできます。

呼吸補助筋の観察・参考イメージ

呼吸補助筋のうち診察を行う上で覚えておいた方が良いのは胸鎖乳突筋と斜角筋群です。
胸鎖乳突筋は側頭骨の乳様突起から胸骨丙の鎖骨近位部に伸びる筋肉で、胸骨を上向きに引き上げる筋肉です。次に斜角筋ですが、斜角筋は前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋の3つがあり、前斜角筋・中斜角筋は第1肋骨を後斜角筋は第2肋骨を上に引き上げる筋肉です。

胸鎖乳突筋と斜角筋群・参考イメージ

間質性肺炎や肺気腫といった慢性呼吸不全のある患者さんはこれらの呼吸補助筋が肥大してきます。間質性肺炎に関しては、胸鎖乳突筋よりも斜角筋の活動性が高いと言われており、胸鎖乳突筋とともに斜角筋の触診も重要です。斜角筋は胸鎖乳突筋の後縁、僧帽筋の前縁、鎖骨の中央部1/3で囲まれる後頸三角の奥に触知する事が出ます。写真は間質性肺炎の患者さんの斜角筋ですが、触診せずとも肥大しているのが目に見えますね。

胸鎖乳突筋と斜角筋群・参考イメージ
また、これら呼吸補助筋は正常であれば普段使用することはないため、吸気時に収縮していること自体が異常です。呼吸補助筋の使用は一般的には慢性閉塞性肺疾患の検出に対してLR+3.3と診断に有用な所見と言われますが、間質性肺炎に関しても同様の事が言えると思います。(マクギーのフィジカル診断学)

2)ばち指の観察

次にばち指の観察です。ばち指とは指末節の結合組織が無痛性、局在性に増大する所見で、通常は対称性に出現し、足趾より手指で多い所見と言われます。定義が一応決まっており、①指節間の太さの比が1以上、②爪床角が190度以上、③Schamroth徴候陽性と言われます。このうち①、②に関して(下図左A)は知識としては知っておいても良いかと思いますが、長さを図って比を見たり、角度を図ったりするのは実臨床ではかなり使い勝手が悪いように思うので、簡単な理解で十分です。ぱっと①②を見て③Schamroth徴候から判断しています。

ばち指の観察・イメージ

ここで本題から少しずれますが、ばち指の病態についてお話しておきます。ばち指になる原因はいまだ良く分かっていませんが、主病態は血管結合組織量の増加と言われており、Dickinsonらが病態について報告しています(Lancet. 1987;330:1434–5.)。

ばち指の病態について・参考イメージ
巨核球は骨髄から遊走し、体静脈を通って肺毛細血管へ到達します。そこで一部がちぎれて血小板になります。この循環の中で肺毛細血管が障害されている病態(間質性肺炎含む炎症性疾患、悪性疾患、血管奇形、左―右シャントなど)があると巨核球が肺循環を通過し指の遠位に到達、指の毛細血管に補足されます。補足されたところでPDGF(Platelet-Derived Growth Factor:間葉系細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞など)の遊走や増殖に関与)やVEGF(vascular endothelial growth factor:血管新生を促進するタンパク質)を放出し線維血管系の増殖が起こり、ばち指を来すと言われます。この際、手指よりも足趾の方が遠いので、足趾にはばち指は起こりにくいと考えられます。これが、ばち指が足より手に多い所見と言われる所以です。(Acta Clin Belg 2016 Jun;71(3):123-30.)ちなみに肺気腫ではばち指にならないと言われており、肺気腫の患者さんにばち指を認めたら肺がんを疑います。ばち指は原因疾患を適切に治療すれば消退するため、治療の効果判定になるので、定期的に確認すると良いと思います。

Coarse cracklesを考察する

Coarse cracklesを考察する・参考イメージ

次にcoarse cracklesについて考えていきます。
Coarse cracklesはfine cracklesと比較して音は粗く低い、「プツプツ」「ブツブツ」「ゴロゴロ」という音です。その音の発生は、空気が気道を通過した際に分泌物がはじける音と閉塞していた末梢気道が吸気に伴い突然開放した時の開放音です。聴取される代表的な病態が細菌性肺炎です。
 肺炎に関して、コモンな疾患ですので肺の生理学的・解剖学的な機能から少し病態を考えておきます。肺炎を理解するにあたり、まず気道の解剖と感染防御機構についてお話しておきます。

我々の気道は鼻腔、喉頭から始まり気管→気管支→細気管支→呼吸細気管支ときて肺胞管、肺胞となります。その間で23分岐すると言われています。ここで、口から気管支までを上気道、細気管支から肺胞までを下気道と臨床的に定義します。上気道は空気の通り道、下気道はガス交換の場です。肺炎は下気道の炎症ですので細気管支から肺胞に炎症を来す疾患です。

気道について・参考イメージ

気道には感染を防ぐための防御機構が備わっています。
 まず、微生物の最初の侵入門戸は鼻腔です。鼻腔の入り口には鼻毛があり、ここが最初のトラップになっており、ここで大きな粒子を捕捉します。その奥は上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介といった複雑な構造になっており、ここで空気の乱流を作ることにより異物を粘膜へ捕捉し咽頭へ移送し嚥下されるようになっています。(咽頭への移送に一役買っているのが鼻腔の上皮に絨毯のように敷き詰められている線毛です。線毛は毎秒10-20回の波動を繰り返しており、鼻腔内の線毛は(下流方向)咽頭方向へ、肺の線毛は上流方向へ波動します。) 鼻腔の奥に待っているのは活性化されたリンパ球の大群が控えている扁桃腺があります。ここは感染防御の最初の砦であり多数の扁桃腺を配置しており、それらを合わせてワルダイエル咽頭輪と言います。ここで、扁桃腺だけではなく咽頭後壁にも活性化されたリンパ球が多数存在していることから咽頭自体がリンパ組織と言っても過言ではありません。

ワルダイエル咽頭輪・参考イメージ

咽頭からさらに奥に入ると上気道が待っています。ここからは気道が幾重にも分岐し迷路のようになります。気管支が分岐していることにより異物を捕まえることができ、あとは線毛上皮による浄化作用と咳嗽で外へ異物を追い出します。その後下気道に入り、終末細気管支以降になると、ここまで活躍してきた線毛もなくなります。そして、この先を守っているのは肺胞マクロファージです。ここまで侵入した微生物はマクロファージに貪食され排除されます。
このように、気道には微生物や異物から体を守るために厳重な防御システムを構築しています。少し長くなりましたが、これらの防御システムが破綻すると細菌が肺胞まで到達し、肺胞マクロファージに貪食され免疫応答を起こします。この場合好中球が肺胞内に遊走し、肺胞内を充満する形で病変が伸展します。その結果、気道の分泌物(喀痰)が増えるためcoarse cracklesを聴取するわけです。
ここで一つ特殊な菌であるマイコプラズマについて触れておきます。マイコプラズマは一般的な肺炎を起こす細菌とは異なり、感染する部位は線毛です。線毛は上でお話した通り終末細気管支までしかありません。つまりは、感染しても肺胞マクロファージを刺激しにくいため分泌物や炎症物質はそれほど増えず、末梢まで炎症が届かないため体表からの聴診所見に乏しい、線毛が元気な方が感染しやすいため若者に多いといった特徴があるわけです。非定型肺炎の診断に使用する基準もこれで説明可能です。
このように細菌性肺炎はcoarse cracklesを聴取しますが、肺胞の機能が障害されているため「肺胞呼吸音の気管呼吸音化」も生じるので、合わせて評価できると良いと思います。

呼吸相を意識して改善を判定する

先にfine cracklesは呼吸相を意識して聴診する事が重要とお話しましたが、coarse cracklesも同様です。呼吸相を意識することで治療効果の判定が可能です。細菌性肺炎では、感染の初期はearly inspiratory cracklesとなりますが、治癒過程ではlate inspiratory cracklesへ時相が変化します。(下図)さらに、炎症の改善に伴い気道の浮腫は改善しますが、炎症細胞は残存していると考えられています。そのため、肺は乾燥すると、その一部でコンプライアンスが低下し、分節性に気道の虚脱が生じるためfine cracklesを聴取するようになります。つまりは肺炎の治療に伴い聴診所見はearly inspiratory crackles(coarse crackles)→late inspiratory crackles(coarse crackles)→fine cracklesと変化していきます。このように呼吸相と病態を意識した聴診は治療効果を判定するにあたり非常に重要です。
呼吸相を意識して改善を判定する・参考イメージ
以上のように聴診所見を解剖学的、組織学的に理解すると考察が深くなり、さらには誤診が減るように思います。「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。

<今回のまとめ>

  1. 聴診を行う際は解剖学的な理解をする。
  2. 断続性ラ音は呼吸相を意識して聴診する。
  3. 聴診所見だけでなく聴診以外の所見も合わせて肺の状態を評価し、病態を推測する。

今回は肺の聴診(副雑音②断続性ラ音)について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。
最後にもう一度言いますが、「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。
身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は心臓の聴診(正常心音)について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 あすかホームケアクリック院長より

「はじめまして、あすかホームケア院長の黒木です」
こんにちは、この度、あすかホームケアクリニックの院長に就任いたしました、黒木卓馬と申します。専門は脳神経内科で、総合内科専門医も取得しています。
大学病院では多くの神経難病など慢性期疾患の方はもちろんのこと、救急外来で多くの急性期疾患の方の診療にも携わってきましたが、学生時代から患者さんと密に関わることができる地域医療に興味があり、学位を取得した後は在宅医療に携わってきました。
そのような経験を活かすべく当院では、いつでも気軽に相談できる、困った時には頼りになる、地域の中でそんな存在であり続けたいと思い日々診療に当たっています。地域の皆様にとって、心強い支えとなり、安心して生活できるような医療を提供したいと考えています。
明るくも真摯に、地域の皆様と共に医療に取り組でいき、皆様の健康的でより良い生活の支えとなるよう尽力して参ります。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

あすかホームケアクリニック
院長 黒木卓馬

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聴診器・キーホルダーイメージ

 第2回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました

2023年12月7日に第2回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました。

今回は「一から知ろう!パーキンソン病」というテーマで脳神経内科センター長の大中先生にレクチャーをしていただきました。

城南地区ネット

今回もパーキンソン病をテーマにグループワークを交えた勉強会を行いました。実際の患者さんのケースを元に、患者さんが困っている症状は何か、日常生活のどこに不自由しているのかなどみなさん積極的に討議に参加していただき、とても有意義な会ができたかと思います。個人的には藤元先生のジスキネジアのクオリティにびっくりしました。また、パーキンソン病と口腔状態というテーマで歯科の郡司先生にもお話しをいただきました。嚥下障害の疑似体験、とても勉強になりました。

第2回城南地区在宅医療ネットワーク①
第2回城南地区在宅医療ネットワーク②
第2回城南地区在宅医療ネットワーク③
第2回城南地区在宅医療ネットワーク④
第2回城南地区在宅医療ネットワーク⑤

2040年問題という大きな壁が立ちはだかる状況ですが、城南地区の在宅医療へ関わるスタッフの方々の熱い思いがあればきっと良いネットワークができ、総力戦で乗り切ることができると確信しています。

今回集まっていただいた方々だけでなく、たくさんの人とのご縁を大切にして全国へ発信できる在宅医療ネットワークを目指していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

城南地区在宅医療ネットワーク 責任者 
教育委員長 リウマチ・膠原病センター 古屋秀和

 第10回 Houyukai Link Lectureを開催しました!

2023年11月30日に「第10回 Houyukai Link Lecture」を開催しました。
今回は脳神経内科センター 長谷川幸祐先生に担当していただきました!

今回のテーマは。。
「自律神経とレビー小体病」
自律神経異常の病態生理からαシヌクレイン蛋白の異常沈着によるレビー小体沈着と疾患の表現型の違いまで、レビー小体病という疾患スペクトラムについて詳しくお話ししていただきました!

長谷川先生の講義風景

長谷川先生の講義風景

今回の要点
普段なかなか聞くことのできない神経疾患の詳しいところを聞くことができてとても勉強になりました!そして、レビー小体病の考え方と抗核抗体陽性の疾患群の考え方って似ているなあとこっそり思いました。

  • パーキンソン病やレビー小体型認知症は、レビー小体が沈着するという点でレビー小体病としてまとめられる
  • レビー小体の正体はαシヌクレイン蛋白の異常沈着による
  • レビー小体が体のどの部位に沈着するかで症状に違いがみられる
  • 自律神経症状はレビー小体病の前駆症状として重要である

荏原ホームケアクリニックでは各センター間や医師・アシスタント間の垣根を越えて、ともに成長し、良質な医療者を輩出するための取り組みをしています。その一つの取り組みとしてのHouyukai Link Lectureも3ヶ月に1回定期的に開催していく予定です。これからも学びを止めることなく日々研鑽を積んでいきたいと思います。

今後もスタッフ一同高いモチベーションを持ち頑張っていきます!