T病院訪問の帰り路、癒しのひと時

 最近の加熱するグルメブームは、“普通”のクオリティの飲食店を駆逐し続け、東京では残存する小店舗は何処に入っても、こだわりのおいしさを提供してくれる。それ以外は大量仕入れ、効率化された調理のチェーン店である。それはそれで低価格で通常のおいしさを提供してくれるメリットが大きく、満足感は高い。当たりはずれの消滅は果物に至るまで浸透しており、すっぱい蜜柑はもはや売っていないし、店先でスイカを叩いて甘さ診断する光景もついぞ見なくなった。食について日本は本当に幸福な社会なのだろう。そこにそこはかとないつまらなさを感じてしまうなんてことは恐れを知らぬ大罪なのかもしれない。

けれど正直に言うと、ふと昔ながらのシンプルな味が恋しくなる瞬間がある。名店がプロデュースする高級ラーメンよりもサッポロ一番塩ラーメン、ドライブインの水っぽい具なしカレーライス(最近はこれも絶滅しかかっている)。訪問診療の合間に立ち寄る駅の生煮えの立ち食いソバ…。それらは時に、幼いころに嬉々として向かった、薄暮のお祭りのような郷愁をそそる。

T病院訪問の帰り路、細い路地裏についに見つけてしまった。陳腐な表現だが、タイムスリップしてしまったような甘味処。昭和な雰囲気と懐かしくも優しい分かりやすい味。そしてソフトクリームとかき氷で300円!ちょっと遠いけれど常連になってしまう予定。やはり今でも世界はシンプルな物事の上に乗っかっていた。後ろばかり懐かしがることはいけないが、思い出し感じることが癒しになると実感したひと時だった。かき氷を食べ、冷たい頭痛が通り過ぎたらまた頑張ろう。

流八郎