こんにちは!あすかホームケアクリニックです!
今回はALSの患者さんの新しいコミュニケーションツールの可能性についてです。以前のブログでもその研究論文について触れたことがありますのでそちらもご参照いただければと思います。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、運動神経が徐々に障害され、手足だけでなく、話す・書く・飲み込むといった機能も低下していく神経難病です。
病気が進行すると、これまで使えていたコミュニケーション手段が少しずつ難しくなることがあります。
しかし、
「話せない」ことと「伝えたいことがない」ことは、全く違います。
頭の中では考え、感じ、家族や医療者に伝えたいことがあっても、それを身体の動きや声に変えることが難しくなる。
この「伝えたい」という思いを、脳の活動から読み取ってコンピューターにつなげる技術が、今、大きな注目を集めています。
日本でも、いよいよ治験へ
その技術が、BCI(Brain-Computer Interface:ブレイン・コンピューター・インターフェース)です。
大阪大学発の研究成果をもとに開発を進めているJiMEDでは、ALS患者さんを対象とした植込み型BCIの国内初の治験に向けた準備が進められています。
2026年4月には治験届の提出を完了し、現在は患者さんへの手術を2026年中に開始することを目指しています。
つまり、現在は「研究室の中での研究」から、実際の患者さんを対象として安全性や有効性を検証する臨床試験へ進もうとしている段階です。
どのようにして「会話」するのでしょうか?
今回のBCIは、一般的な健康診断などで行う「頭に電極を貼る脳波検査」とは異なります。
脳の表面に電極を留置し、脳の活動を記録します。
そして、
- 「文字を選ぼう」
- 「この言葉を伝えたい」
と本人が意図したときの脳活動をコンピューターが解析し、その情報を意思伝達装置につなげることを目指します。
最終的には、画面上に文字を表示することで、手や声を使わずに意思を伝えることが期待されています。
もちろん、今回の国内治験では、これが本当に安全に、そして患者さんのコミュニケーションに役立つのかを検証していくことになります。
実は、海外ではすでに「脳から言葉を作る」ことに成功しています
この技術は、決して未来の話だけではありません。
2024年にNew England Journal of Medicine(NEJM)に発表された研究では、ALSによって重度の構音障害を呈した患者さんに、脳内電極を用いた音声ニューロプロテーゼを使用しました。
患者さんが「話しよう」と試みたときの脳活動をコンピューターが解析し、言葉として画面に表示するシステムです。
研究では、短時間のトレーニング後に会話に利用可能なレベルの性能が得られ、報告された音声速度は約32語/分、誤認識率は2.5%でした。
脳の活動 → コンピューター → 言葉
という仕組みが、実際のALS患者さんのコミュニケーションに使える可能性を示した重要な研究です。
さらに「自分の声」に近い音声へ
BCI研究はさらに進んでいます。
2025年には、脳活動から発話内容を読み取り、リアルタイムに音声として出力する研究も報告されています。
これまでのBCIでは、文字を画面に表示することが中心でした。
しかし今後は、
- 「文字を入力する」だけでなく、
- 「声として話す」こと
も可能になるかもしれません。
研究では、脳から得られた信号を音声に変換し、自然な発話に近い形で出力することが試みられています。
「実際の生活」で使えるのか?
ここも非常に重要なポイントです。
研究室の中で一時的に文字が入力できても、ALS患者さんにとって本当に役立つためには、自宅で、長期間使えることが必要です。
過去には、ALS患者さんに植込み型BCIを長期間使用してもらい、実生活でコミュニケーションに利用した研究も報告されています。
2016年には、進行期ALS患者さんに完全植込み型BCIを用いた研究がNEJMに報告されました。脳表に電極を置き、胸部に送信機を植え込むことで、コンピューター操作や意思伝達を行う試みです。
このような研究の積み重ねによって、
「BCIは本当に患者さんの生活を支えられるのか?」
という、より実践的な段階へ研究が進んできています。
在宅医療にとっても大きな意味があります
ALSの在宅医療では、コミュニケーション手段を確保することが非常に重要です。
例えば、
- 「痛い」
- 「苦しい」
- 「薬を変えたい」
- 「トイレに行きたい」
- 「今日は家族と話したい」
といった日常的な意思表示。
さらに、
- 「どこで生活したいのか」
- 「どのような治療を受けたいのか」
- 「人工呼吸器をどうするのか」
といった、人生に関わる大切な意思決定。
これらを本人が伝えられることは、ALSの診療や在宅療養を支えるうえで非常に大切です。
現在も、視線入力装置や文字盤など、さまざまな意思伝達手段があります。
しかし、病気が進行すると、視線を動かすことさえ難しくなる場合があります。
そのような場合にも、「脳そのものから意思を読み取る」というBCIは、新しい選択肢になる可能性があります。
ただし、まだ「誰でも使える技術」ではありません
大きな期待が寄せられている一方で、BCIにはまだ課題があります。
- 脳に電極を留置するため、手術に伴うリスクがあります。
- 長期間使用した場合にどの程度安定して信号を読み取れるのか、ALSの進行によって脳の状態が変化した場合にも使い続けられるのか、といった課題があります。
実際、過去の研究では、長期間使用できた一方で、ALSの進行に伴う脳の変化によってBCIの性能が低下した例も報告されています。
だからこそ、今回の国内治験には大きな意味があります。
安全性はどうか。本当に意思伝達に役立つのか。患者さんやご家族が実際の生活の中で使えるのか。
こうしたことを、臨床の場で検証していくことになります。
「伝える」ということを、最後まで支える
ALSの医療では、病気の進行を抑える治療だけでなく、「その人が最後まで、自分の意思を伝えられること」も非常に重要です。
身体が動かなくなっても、声が出なくなっても、
- 「今日は何を食べたい」
- 「家族にこう伝えたい」
- 「この治療を受けたい」
- 「自宅で過ごしたい」
そんな本人の思いを、どうやって周囲に届けるのか。
BCIは、その可能性を大きく広げる技術かもしれません。
日本でも2026年4月に治験届の提出が完了し、患者さんへの手術を年内に開始することが目標とされています。
海外ではすでに、ALS患者さんの脳活動から文字や音声を生成し、コミュニケーションにつなげる研究が報告されています。
「脳から言葉を届ける」
そんな未来が、少しずつ現実に近づいているかもしれません。
あすかホームケアクリニックでも、ALS患者さんの「伝えたい」を支える新しい技術として、今後の治験と研究の進展を注目していきたいと思います。

●訪問診療対応エリア●
北区・板橋区・豊島区全域
足立区・文京区・荒川区・練馬区・新宿区・川口市、戸田市の一部地域
参考文献・情報源
- Card NS, et al. An Accurate and Rapidly Calibrating Speech Neuroprosthesis. N Engl J Med. 2024.
- Willett FR, et al. A high-performance speech neuroprosthesis. Nature. 2023;620:1031-1036.
- Vansteensel MJ, et al. Fully Implanted Brain–Computer Interface in a Locked-In Patient with ALS. N Engl J Med. 2016.
- Chang EF. Brain–Computer Interfaces for Restoring Communication. N Engl J Med. 2024;391:654-657.
- 大阪大学 脳機能診断再建学(平田雅之研究室)「植込み型BCI治験」に関する情報。
※本ブログは2026年9月時点で公表されている情報をもとに作成しています。国内の植込み型BCIは現在、治験開始に向けた段階であり、一般診療として利用できるものではありません。
