第35夜 腹膜播種(ふくまくはしゅ)について

川口です。

今回は腹膜播種(ふくまくはしゅ)についてです。
お腹は腹膜と呼ばれる幕が袋状になっていて、その中に胃、小腸、大腸、肝臓、胆のう、膵臓、脾臓などの臓器が入っています。袋の中にある臓器を腹腔内臓器と呼びます。

がんが臓器の壁を破って腹膜に広がる事を腹膜播種といいます。
腹膜播種は初期段階の場合、症状が現れない事がありますが進行すると腹水貯留、腸閉塞、腸閉塞による吐き気・嘔吐、痛み、肝胆道系に障害が起きて黄疸など様々な症状が出現します。
実際の症例をもとにどのようにして腹膜播種の症状を緩和するかを説明します。

~症例~
60才 女性
卵巣がん 腹膜播種 肺転移 腹水 高カロリー点滴
腹膜播種、腸閉塞による持続する吐き気、嘔吐があり内服はほぼできない
腹水貯留による腹部膨満感、腹部痛がある
肺転移による呼吸苦がある

アイスクリームを食べたいという希望がある
吐き気、嘔吐に対してドンペリドン座薬を使用しているが効果ない
腹部痛はカロナール座薬にて軽減している

苦痛となっている症状が多数あります。持続する吐き気、嘔吐が一番つらいと訴えています。

1、高カロリー点滴の減量(60ml/時から35ml/時)
本症例では浮腫、腹水があり過剰な輸液は苦痛につながります。過剰な輸液は消化管分泌亢進となり症状緩和困難となる事があります。
2、点滴内にヒスタミンH2受容体拮抗薬かプロトンポンプ阻害薬を混注
胃酸の分泌を抑制し間接的に消化管閉塞による吐き気、嘔吐を軽減する目的で行います。私は主にガスター40㎎を混注します。
3、ステロイドの投与
消化管閉塞に対して腫瘍や周囲の炎症性浮腫軽減効果により閉塞が緩和され、閉塞による症状の軽減につながると考えられています。
抗炎症作用によりがん性腹膜炎に付随する炎症が抑制され腹水緩和につながる事があります。
私は主にベタメタゾン(リンデロン)を8㎎/日で開始して効果の維持できる最小量まで減らしていきます。4㎎/日で維持する事が多いです。
4、オクトレオチド(サンドスタチン)の投与
消化管における消化液の分泌抑制、水・電解質の吸収促進作用があり消化管閉塞時の吐き気、嘔吐を軽減させる事が期待できます。
1日あたり約300μgを点滴投与します。
ステロイド、アミノ酸製剤、高カロリー輸液などとの混合で効果が減弱されるので注意が必要です。

5、オピオイドの投与
高カロリー点滴の際の輸液ポンプ、オピオイド持続点滴で使用するCADDポンプ、さらにオクトレオチド持続点滴で使用するポンプとなると機械だらけになってしまい、それだけで患者さんと御家族に精神的苦痛を与えかねません。
そこで私はオピオイドとオクトレオチドを混合し濃度、流量を調整しCADDポンプで同時に投与する事が多いです。

ちなみに本症例の患者さんはオクトレオチド、ステロイドの投与により持続する吐き気、嘔吐が消失し氷から経口摂取を開始し氷菓子、アイスクリーム、オニオンスープ、具なしの茶わん蒸しなど摂取できました。アイスクリーム以外の物を摂取出来て幸せとおっしゃっていました。

苦痛緩和が最優先ですが、私は患者さんの希望を可能であれば何か一つでも叶えてあげる事が在宅がん緩和で大切な事と思っています。

今回はここまでです。
写真は実際に使用したCADDポンプの点滴内容です。