第3回 誤嚥性肺炎と予防(口腔ケア)について

介護をしていく上で大きな問題となる誤嚥性肺炎とその予防、
特に口腔ケアを中心にご紹介していきたいと思います。

Q 誤嚥性肺炎とは?

咽頭反射という反射を皆さんはご存じでしょうか?
のどの奥に指を突っ込むと「オエっ」となりますよね。
あの状態を医学用語で咽頭反射といいます。

ここをご覧になっている皆様にとって「オエっ」となるのは
ごく当たり前のことかと思われます。
しかし、加齢によってこの反射は弱くなって行き、介護が必要な高齢者の方では
咽頭反射がかなり弱い、または完全になくなってしまっているということも
珍しいことではありません。
さらに高齢者の方は物を飲み込む力(嚥下能力)自体も低下しています。
また、健常な人であれば気管に物が入ったときむせ込むことがありますが
(むせ込むことを「咳嗽反射」といいます)、
高齢者の方では、このむせ込みすら見られないこともあります。

Q この状態ではどういうことが起きるでしょうか?

本来気管に異物が入らないようにするための咽頭反射
異物が入っても外に出す咳嗽反射の二つの反射がなく、
水・食物を食道に運び込むための嚥下能力が低下していると、
異物・水・食物や唾液が容易に気管に入ってしまいます。

嘔吐があれば胃液も気管に入ります。
これらによって気管・気管支・肺に炎症が起こることを“誤嚥性肺炎”といいます。

体力・免疫能力の低下した高齢者ではこれはかなり致命的な事態であり、
治療に難渋することも多く、誤嚥性肺炎が原因で亡くなる方も大勢いらっしゃいます。

なかなかに恐ろしい誤嚥性肺炎・・。
これを予防するにはどうすればいいでしょうか?

実はご家庭でできる対策があるのです!

それは・・口腔ケアです!

Q 口腔ケアとは?

口腔ケアというと難しく聞こえてしまいますが、
皆さんはすでに毎日口腔ケアを実践されていますよね?

そう、歯磨きです!

介護が必要な高齢者の場合、身の回りのことが自分でできない場合が多いと思います。
そして、介護するご家族の方も食事・排泄・入浴や痰の吸引、
胃瘻などのケアのような生活・生命に直結するようなことは毎日されていると思いますが、意外に忘れがちなのが“口腔ケア”だったりするのです。

試しに患者さんのお口の臭いを嗅いでみましょう。
臭っていませんか?
歯垢がところどころについていたりしませんか?
舌が汚くなってはいないでしょうか?
これらは口腔内で細菌が繁殖していることの大切なサインです。

口腔内には多種多様の細菌が存在しています。
先に述べましたように飲み込む機能や咳をする力が弱くなると、
口腔内の細菌や逆流した胃液が誤って気管に入りやすくなります。
胃液の逆流についてはご家庭でコントロールすることは難しいと思いますが、
口腔内の細菌が気管に入るのは予防できます。

口の中を綺麗にすればいいのです!

そのための一番簡単で身近な方法が歯磨きという事になります。
歯磨きをするだけで“誤嚥性肺炎のリスクがかなり低く”なるのです。

Q 歯磨きの方法は?

特別な方法や用具は必要ありません。
普通の歯ブラシを用意して頂いて、丁寧に磨いていただければ結構です。
ただ、口腔粘膜を傷つけないように柔らか目のブラシの方が良いかもしれません。

一番気を付けなければいけないのが“口腔ケアを行う時の体位”です。
なるべく頭を高い位置にして行いましょう。
ベッドを90度近くまで上げられると理想的な体位になります。
座位が可能な方の場合は椅子に座って行うのも良いと思います。

ベッドを90度まで上げるのが無理なら可能な範囲で上体を起こして行いましょう。
それも難しければ側臥位(横向き)で行います。
さらに難しければ仰臥位(あおむけ)で顔だけ横に向けます。
仰臥位で顔も正面だと誤嚥しやすいので歯磨きは避けましょう。

その他、患者さんの状態や、義歯(入れ歯)の有無、食事が経口摂取出来ているかいないか、
嚥下機能のリハビリ、口腔の状態に応じた道具・方法の選択なども重要なのですが、
まずは介護者の皆さんが出来る範囲で良いので口腔ケアにチャレンジしてみましょう!
分からないことがあれば医師、看護師に相談してください。

歯磨き一つで誤嚥性肺炎の予防ができます!
一人で行うことに不安を感じる時は看護師と一緒に実践するのもいいかもしれません。
簡単なことから始める病気予防の歯磨き。
是非、今日からでもいいので第一歩を踏み出してみて下さいね!

研修医 山口 晃
2011.09.30