映画の中の神経疾患3

- 毎回、映画の中の神経疾患について取り上げてみます -

  第3回目は「アンドロメダ・・・」(1971年)です。

  この作品はSF映画のため神経疾患はあまり出てきませんが、私が小学生の頃テレビ映画で見た覚えがあり、懐かしくて今回とり上げてみました。

 原作は1969年に「ジュラシック・パーク」の原作でも有名な、マイケル・クライトンによって発表されたSF小説で、1971年にロバート・ワイズ監督によって映画化されました。最近またリドリー・スコットにより前後篇のTVシリーズとして原題の「アンドロメダ・ストレイン」の名でリメイクされています。

  あらすじは、ある人工衛星がアメリカの片田舎ピートモンドという町に墜落し、その町の住人が人工衛星のふたを開けたため、住人全員が死亡してしまいます。そこにワイルドファイア計画のもとに集められた科学者が現地調査及び人工衛星の回収に行くと、全員死亡していたと思われた住人の中に、泣き叫ぶ赤ん坊と、胃潰瘍を患ったアルコール中毒の老人が生存者として発見され、ワイルドファイア計画の秘密研究所に人工衛星とともに収容されます。そして科学者たちはその町で起きた惨事を突きとめようと地下秘密研究所で研究を始めます。

  この映画の「ワイルドファイア計画」とは、アメリカ国内でバイオハザードが発生した際に、その対応策を研究する計画のことで、この映画は「アンドロメダ」と名付けられた未知の宇宙病原体を研究し対策法を発見するまでの数日間のお話です。

  それではなぜ赤ちゃんと老人だけが生き残ったのでしょう。

 もともと人間の血液は弱アルカリ性(H 7.357.45)ですが、赤ちゃんは泣き叫ぶため過呼吸になり血液がよりアルカリ気味(呼吸性アルカローシス)になり、老人は胃潰瘍による貧血やメチルアルコールを含むお酒を飲み、アスピリンを摂取することにより、酸性気味(代謝性アシドーシス)になり、正常の血液酸度内でしか生きられないアンドロメダ病原菌から感染を免れたとの解釈でした。

  さて、赤ちゃんが過呼吸になり血液がアルカリになるという現象は、実は日常よくみられる状況に似ています。これは「過換気症候群」と呼ばれる状況で、ストレスや緊張、パニックで過換気がおき、手先がしびれ、めまいや意識が遠のいてしまうという症状が出ます。

 原因は、呼吸回数が増えると二酸化炭素が息(呼気)に多量に排泄され、血液がアルカリ気味に傾き、酸素が足らないと勘違いした脳は、より呼吸をしなさいと命令して過換気が増悪します。

 その際手先がしびれるのは、血液中のカルシウムが低下して筋肉がつっぱるテタニーという症状と似ていますが、「過換気症候群」の場合は血液のサラサラの部分(血漿)の中の遊離カルシウムが、血液がアルカリに傾くことによって血液の蛋白質(アルブミン)と結合して、血液内で利用できるカルシウムが低下したため、筋肉のけいれんが起きてしまうのです。

 しかし、この映画の赤ちゃんの場合は、ミルクがもらえないため泣いている(過呼吸になっている)ため、過換気症候群と呼ぶにはふさわしくありませんね。でも映画の最後に、科学者の一人が「アンドロメダ」に汚染された部屋に隔離された際、過呼吸になって感染の難を逃れます。この時は感染への恐怖による精神的緊張がきっかけで過呼吸が起きたので、「過換気症候群」と呼んで良いでしょう。

 もう一点神経に関係するシーンが出てきます。女性科学者が赤い光の点滅を見て放心状態になったり、泡を吹いて倒れてしまうシーンです。これは「光過敏性発作」と呼び、点滅する光に対して不快な症状を感じたり、けいれん発作を起こすことがあり、てんかんによる場合があります。10年ほど前に「ポケモンショック」として問題になりましたね。

  さて、この作品は前述したように、2008年にリドリー・スコット、トニー・スコット製作総指揮により、テレビミニシリーズとしてリメイクされています。こちらは原作をベースに、かなり現代風にアレンジされていて、政治的駆け引きに加え、環境問題、親子問題、軍の暗躍などさまざまな要素がからみ話が膨らみすぎたため、上記の神経症状も出てきますが必然性がなくなっています。でも楽しめる映画でDVDも出ていますので、機会があったら見比べてみてください。