第26夜 緩和医療について〜オピオイドについて②〜

川口です。
9月になりました。すっかり秋めいてきました。
夜は少しずつ鈴虫の鳴き声が聞こえ始めましたね。
今回はオピオイドの内服が出来なくなったらについてです。
実際の症例をもとに説明していきます。

~症例~
60歳 男性
膵頭部癌 十二指腸浸潤 多発肝転移 肺結核
栄養はPICCカテーテルから高カロリー点滴管理。
閉塞性黄疸にPTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)ドレーンチューブで対応。
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【内服】
MSコンチン10㎎ 3錠 分3 朝、昼、夕・・・オピオイド(モルヒネ製剤)
オプソ5㎎ 疼痛時頓用・・・オピオイド(モルヒネ製剤)
イスコチン100㎎ 3錠 起床時
リファジン100㎎ 3カプセル 起床時
エタンブトール250㎎ 3錠 起床時
ピドキサール10㎎ 3錠 分3 朝、昼、夕
ネキシウム20㎎ 1カプセル 分1 朝
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オピオイド以外に抗結核薬を使用しています。
【経過】
背部痛に対してMSコンチン、オプソの頓用内服で対応できていたが状態低下あり週末に内服困難になった。事前に内服困難時に備えてアンペック座薬10㎎(モルヒネ製剤)を処方しておいた。
週末、夜間帯で内服困難になり貼布薬や座薬を処方してもすぐに薬が手に入らない事が予測される。
アンペック座薬の使用は平均して1日4個だった。
レスキューを含めると1日に6回使用する事もあり座薬挿入に抵抗感も出ておりモルヒネ持続点滴に切り替えた。
~豆知識~
モルヒネ製剤には内服薬、座薬、注射薬があります。貼布薬はありません。

便秘はオピオイド使用中の患者さんに高頻度で生じます。
便秘対策…酸化マグネシウム、スインプロイクを使用しています。
酸化マグネシウムやラクツロースなどの便を柔らかくする浸透圧性下剤、ピコスルファートやセンノシドなどの腸蠕動を促進させる大腸刺激性下剤を使用します。

~豆知識~
オピオイドは脳のμ(ミュー)受容体を介して鎮痛作用を発揮しますが腸管に存在するμ受容体にも作用して腸の運動が抑えられ便秘になります。
スインプロイクは腸管のμ受容体へ作用する事をブロックします。オピオイドによる腸の運動抑制に拮抗し便通を解消させる薬剤です。

☆換算式☆
モルヒネ:内服60㎎/日=座薬40㎎/日=静注・皮下注30㎎/日

基本的には上記換算式で対応しますが全身状態が低下している場合、静注・皮下注は内服量の約1/3程度に変更する事があります。
本症例は全身状態低下しており
塩酸モルヒネ20ml(200㎎)+生理食塩水180ml 計200ml 1ml/時で開始した。(24㎎/日)

では次にどのような機械を使ってモルヒネ持続点滴を行うか説明します。
正確に時間単位で薬剤を注入する必要があり手動ではなくPCAポンプと呼ばれる機械を使用します。

~豆知識~
PCA:Patient Controlled Analgesia 自己調節鎮痛法を意味します。
PCAポンプを使用すると持続的に設定した速度で薬剤が投与されます。
痛みがひどい時はPCAボタンと呼ばれるボタンを押すとその都度設定された薬液量が投与されます。

Q:間違ってボタンを連続で押したら余分に薬液が投与されてしまうの?

過剰投与にならない為にロックアウト時間を設定していますので問題ありません。ボタンを押して一定時間が経過しないと何度ボタンを押しても薬液が投与されないようにしています。
~補足~
使用した機械はCADDポンプです。
塩酸モルヒネ20ml(200㎎)+生理食塩水180ml 計200ml 
1ml/時で持続投与
疼痛時PCAボタンを押して1ml/時を追加投与
ロックアウト時間は10分
上記で設定しました。
その後はPCAボタンの1日使用回数(追加投与量)を元に持続投与量を増量していきます。
病院では内服が困難になった際に速やかにオピオイド持続点滴が導入できますが在宅では週末や夜間帯ではすぐ導入できるわけではありません。
事前にいざという時用に内服以外のオピオイドを準備しておく事も重要です!

今回はここまでにしましょう。
次回は別の症例でまたオピオイドについて取り上げます。