第23夜 緩和医療について

川口です。
新シーズンも始まり皆さん新しい環境に少しずつ慣れてきましたか?
ここ最近、緩和医療を必要とする患者さんが多くなってきました。

Q:緩和医療って何?

がん、非がんなどによる痛み、息苦しさ、倦怠感、食欲低下、その他の身体的症状に対して的確な評価と処置を行い苦痛を予防したり軽減させる事でQOL(クオリティ オブ ライフ:生活の質)を改善させる事です。
~豆知識~
苦痛は身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルな苦痛(スピリチュアルペイン)に分けられます。
全て合わせて全人的苦痛(トータルペイン)と言います。
身体的苦痛:痛み、息苦しさ、倦怠感、動けない事による日常生活の制限など
精神的苦痛:不安、いらだち、怒り、恐怖感、うつ状態、孤独感など
社会的苦痛:仕事上の問題、人間関係、経済的な問題、家庭内の問題、相続問題
スピリチュアル:人生の意味、罪の意識、死の恐怖、死生観に対する悩みなど

ただ薬を使用して身体的苦痛を緩和させても精神的苦痛などがある場合は全てを緩和させたとは言えません。
日々、患者さん宅に訪問した時に御本人、御家族から訴えを時間をかけて聞く事も大切です。
ここからは医療的知識がない方でも読みやすいように出来るだけ簡単に説明していきます。

 

Q:痛みはどのような薬でおさえるの?

非オピオイド鎮痛薬、弱オピオイド、強オピオイドと分類される薬剤、鎮痛補助薬、神経障害性疼痛治療薬、ステロイド、麻酔薬などを用います。他にも使用する薬剤はあります。

~オピオイド~
麻薬性鎮痛薬と言えば理解しやすいでしょう。ただし世間でニュースになるいわゆる麻薬(ドラッグ)ではありません。
脊髄と脳にオピオイド受容体が存在します。そこにオピオイド鎮痛薬が結合する事で脊髄と脳への痛みの伝達が遮断され痛みが治まります。
強力な鎮痛作用がありますが吐き気・嘔吐、便秘、眠気、呼吸抑制などの副作用が出る事があります。その為、慎重に容量調整を行います。

 

Q:非オピオイド鎮痛薬にはどのような物があるの?

NSAIDS(エヌセイズ:非ステロイド性消炎鎮痛薬)、アセトアミノフェンです。NSAIDSには皆さんも聞いた事があると思いますがロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)、セレコキシブ(セレコックス)、メロキシカム(モービック)、アスピリンなどあります。
NSAIDSはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を抑制し痛みの原因である発痛物質プロスタグランジンの生成を抑える事で鎮痛作用を発揮します。副作用として胃腸障害や腎障害がありますが、このような副作用を軽減したタイプの薬剤があります。
アセトアミノフェン(カロナール)は世界的によく使用されている解熱鎮痛剤です。市販の風邪薬にも主成分として含まれています。
抗炎症作用は非常に弱いです。消化管や腎機能に対する影響が少なく、これらの問題でNSAIDSが使用しづらい場合に用いられます。肝機能障害に注意して最大4000㎎/日まで増量可能です。
~WHO式三段階除痛ラダー~☆
非オピオイド鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬を痛みの強さによって段階的に使用する方法です。
第一段階:軽度の痛みに対して非オピオイド鎮痛薬(NSAIDSやアセトアミノフェン)を開始する。
第二段階:軽度から中等度の痛みに対して弱オピオイド(コデインやトラマドールなど)を追加する。
第三段階:中等度から高度の痛みに対して弱オピオイドから強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)に切り替える。

弱オピオイドにはコデイン、トラマドールなどがあります。
強オピオイドにはモルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、メサドン、タペンタドール、ヒドロモルフォンなどがあります。
上記薬剤を使用する上で大切な事があります。

~鎮痛薬使用の基本5原則~

1.経口投与を基本とする:がんの痛みに使用する鎮痛薬は簡便で容量調節が容易で安定した血中濃度が得られる経口投与が最も望ましい。しかし吐き気やおう吐・嚥下困難・消化管閉塞などで内服困難な場合は座薬、貼布薬(貼り薬)、点滴を検討する。

2.時刻を決めて規則正しく:がんの痛みは薬剤の血中濃度が低下すると出現する。あらかじめ時間を決めて使用し薬剤の血中濃度を一定させる。

3.ラダーに沿って効力の順に:除痛ラダーに沿って痛みの程度に応じ必要な段階から開始し効果が不十分であれば強める。必ず第一段階から始める必要はない。

4.患者ごとの個別の量で:患者ごとに鎮痛薬の適量を求める為に効果判定を行い調整する。

5.の上で細かい配慮を:痛みの原因・鎮痛薬の必要性・作用機序・副作用などを十分に説明し使用継続できるように配慮する。

 

今回はここまでにします。
次回は癌性疼痛に対して使用するオピオイドについて少し詳しく説明しようと思います。